ひとりクローズドサークル

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【メフィスト】文芸誌の連載を追いかける楽しみ【日本扇の謎】

講談社の文芸誌「メフィスト」にて、有栖川有栖先生の火村英生シリーズ最新作『日本扇の謎』の連載が始まりました。

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とても書籍化など待ってはいられないのでいつも文芸誌を購入することになるのですが、既に次回が待ち遠しくて仕方がない。

しかし、そのじれったい思いを乗り越えてでも、少しずつ連載を追いかける良さがあります。第2回までまだまだ時間があるので、近年の事例を振り返ることで気を紛らわそうと思う。

※書籍化済みの2作品について、説明の都合上、物語の展開に触れる表現があります(直接的なネタバレはありません)。

文芸誌連載のここが良い

現在地が何合目か分からない

文芸誌の連載を追いかけて読む場合と、1冊の本となった状態で読む場合。両者の大きな差は、自分がいま読んでいる箇所が物語全体のどの地点かを把握できるかどうか、だと思う。

紙の本を読む場合は、ページの進み具合を目視することにより、無意識のうちに今何%の地点を読んでいるのかが分かってしまう。電子書籍の場合は一見分かりにくいが、現在読んでいる章のタイトルや現時点の%表示をワンタッチで表示することができるため、やはり無意識のうちに把握してしまう。

その一方、文芸誌の連載では、読者はそれらを把握することができない。登山に例えると、地図を持たずに登り始め、山頂までの所要時間も分からず、現在自分が山の何合目にいるのかさえもはっきりとしない状況なのかもしれない。しかし、この不安定さが癖になる

強制的に足止めされる

また、1冊の本を読む場合とは異なり、強制的に「次回へ続く」で足止めされてしまう。どんなに展開が気になり、ノンストップで読み続けたかったとしてもそれは叶わない。

個人的に、少なくとも推理小説のジャンルでは「結末を知りたい」という欲に負けてしまい読書を中断することができない。しかし、強制的にページを捲る手を止められることにより、あの人が怪しい、あれは伏線だろうか、今後の展開はどうなるのだろうか、と一旦状況を整理することができる。結果として、物語を丸呑みせず、たくさん噛み締めて味わえることになる。

『インド倶楽部の謎』の場合

講談社 メフィストにて、全3回(2017 vol.3〜2018 vol.2)の連載の後に書籍化されています。

物語全体は6章構成。講談社ノベルスのKindle版によると、全3回の連載は以下のようなペース配分となっていました。

第1回

第1章から第2章の1まで(14%地点)

関係者全員の素性が明かされ、第1の事件の死体発見シーンまでが描かれる。被害者の身元は判明しない。火村とアリスは登場するが、まだ捜査には加わっていない。

→被害者が誰なのかを考えながら次回を待っていた。結果的に、この時点までの登場人物の中に居たのだが、良くも悪くも「殺されそう」な感じではなかったため驚いた。

第2回

第2章の2から第3章の終わりまで(42%地点)

第1の事件の被害者の身元が判明。続いて第2の事件が発生したところで、火村とアリスが捜査へ参加。容疑者の約半数へ聞き込みを行う。途中、謎が1つ浮上するが、火村にはほんのりと検討がついているとのこと。

→謎(なぜ被害者の死亡する日を予告出来たのか)について考えながら次回を待った。この謎がどのように事件に絡んでくるのかという点も含め、全く予想がつかなかった。気を落ち着かせるため、作中に登場する神戸の各所について片っ端から調べた。(後日実際に行った)

第3回

第4章から最後まで

4章の初めから起承転結でいう「転」にあたる(と思われる)部分が始まり、そこから一気に結末まで向かった印象。

→かなり大きな「転」であったため、今まで次回を待ちながら何となく考えていた物語全体のイメージからがらりと雰囲気が変わり、驚いた。ちなみに火村・アリスと犯人との対峙シーンが情緒的でとても好きです。

『捜査線上の夕映え』の場合

別冊 文藝春秋にて、全4回(2021年5〜11月号)の連載の後に書籍化されています。

物語は序章+6章の全7章構成。書籍のKindle版によると、全4回の連載は以下のようなペース配分となっていました。

第1回

序章のみ(7%地点)

アリスの小旅行、事件の発生、火村とアリスのリモート通話のシーンが描かれる。事件現場では「謎の指紋」が登場。

→容疑者は登場せず、どのような事件なのかまだよく分からない。アリスの小旅行に登場したおおさか東線や時の広場について調べながら次回を待った。(後日実際に行った)

第2回

第1章から第3章の終わりまで(43%地点)

第1章にて「ジョーカー」というキーワードが登場。3人の容疑者についても明かされる。また「サングラスの男」や「孔雀」など、素性の分からない人物が捜査線に浮上してくる。

→謎の人物が多く登場したため、考える楽しみがあった。特に「ジョーカー」については、単なる容疑者ではないようだが、事件全体にどのように関わってくるのか全く予想がつかなかった。

第3回

第4章から第5章の2まで(67%地点)

サングラスの男」と「孔雀」の素性が判明。また「謎の指紋」の持ち主も判明。この時点で火村には事件の全容が見えている。また、この回の最後の一文がとんでもない威力の『引き』となっており、同時に「ジョーカー」が何を表していたのかについても判明する。

配信日の深夜に読んでいたところ、驚愕のあまり背筋がぞっとしたことを今でも覚えている。この驚きと「ここで終わるの!?」という気持ちを噛み締められることが連載の醍醐味だと思う。今までの連載と『怪しい店』の該当部分を何度も読み返して次回を待った。

第4回

第5章の3から最後まで

容疑者のバックグラウンドを探りながら、まだ解明できていない事件の穴を埋めていく。最後に火村とアリスが対峙したのは、犯人ではなくある人物だった。

→今作も論理的に犯人を指摘する役割は火村、動機を考える役割はアリス、と役割が分担されている。2人の阿吽の呼吸が見られる点に加え、犯人特定の過程から動機を切り離しているところが個人的に好きです。

『日本扇の謎』はどうなる?

※作品の内容には一切触れていません。

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過去の事例を振り返ると、第1回目は大部分が序章であり、初回のイメージだけでは物語全体の方向性は全く分からない。悪あがきはやめて大人しく次回を待つことにしたい。

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黒猫モチーフがとてもお洒落。なお、「メフィスト」は数年前より会員限定販売となっており、書店には並んでいないため注意。

 

 

【有栖川有栖】江神二郎シリーズ(学生アリス)全作品を時系列順にまとめる【読む順番】

江神二郎(20代後半の大学生)が探偵役となり、英都大学推理小説研究会(EMC)の愉快な後輩たちと共に事件に巻き込まれる江神二郎(学生アリス)シリーズが大好きです。

穏やかでミステリアスなお兄さんである江神さんは勿論のこと、4人の後輩たち(モチ、信長、アリス、マリア)も含めた全員が魅力的なキャラクターであり、彼らの掛け合いや推理合戦を延々とただひたすら聞いていたい。直球の本格ミステリである長編、日常の謎を通してEMCの大学生活を微笑ましく垣間見ることのできる短編、それぞれに良さがあります。

長編4作については時系列順に刊行されていますが、短編は現時点で短編集にまとめられていないものもあり、時系列がやや分かりにくいため、現行の全作品を作中の時間の流れに沿って以下に並べます。

  • ①〜④→長編
  • ☆→短編(「江神二郎の洞察」に収録)
  • ★→短編( シリーズ短編集未収録 )

【EMCの愉快な仲間たち】

  • 江神二郎(部長)
  • 望月周平(モチ)
  • 織田光次郎(信長)
  • 有栖川有栖(アリス)
  • 有馬麻里亜(マリア)

1988年(アリス1回生)

瑠璃荘事件☆5月

「うちにくるか?」

有栖川有栖『瑠璃荘事件』より

望月が下宿する瑠璃荘で、講義ノートの盗難事件が発生した。犯行時刻のアリバイが無く、犯人扱いされる望月。彼の身の潔白を証明するため、EMCの面々が立ち上がる。

物語の語り手である「僕」=アリスが、EMCに所属して初めての事件。まるで漫才のような望月・織田コンビのやりとりを横目に、穏やかに謎を解く江神さん。入学したての1年生を迎える先輩方がとても暖かく、癒される。

事件の舞台として、今では珍しい「下宿」が登場します。共用トイレがアリバイの鍵になっていたりと、当時の大学生の暮らしぶりがとても興味深い。

ハードロック・ラバーズ・オンリー☆6月

学生会館のラウンジで土曜日の午後だというのに予定がないことをぼやいていたら、「河原町にでも出るか」と付き合ってくれたのだ。

有栖川有栖『ハードロック・ラバーズ・オンリー』より

行きつけのロック喫茶で顔見知りとなった女性に雑踏の中で声を掛けるも、無視されてしまうアリス。一体何故なのか?

京都の河原町を歩く間に始まって終わる、シンプルでコンパクトながら余韻が美しい短編。ちなみに、作中で江神さんが出す結論の答え合わせが、後の『除夜を歩く』に登場する。

やけた線路の上の死体☆7月

僕は話を終えてひと息つき、煙草をくわえた江神さんを尊敬の念を込めて見ていた。

有栖川有栖『やけた線路の上の死体』より

望月が生まれ育った南紀白浜を訪れたEMC。隣人の新聞記者を通じて地元で起こった殺人事件を知り、その真相解明に乗り出すことになる。

海辺の街のノスタルジックな雰囲気がとても良い。作中には美人な望月母も登場。ミステリアスな江神さんとは対象的に、この時点で既に下宿の部屋から実家まで晒されているモチさん。親しみしか湧かない。

月光ゲーム①

「これだけ大勢の人間が首をひねって解読できんようなメッセージはとんでもない欠陥品や。」

有栖川有栖『月光ゲーム』より

長編第1作目。矢吹山でキャンプをするEMCの4人。しかし、突然の噴火により、総勢17名の大学生が集まったキャンプ場は陸の孤島となる。身の危険が迫る中、閉ざされた空間で連続殺人事件が発生する。

噴火により発生したクローズドサークル。極限状態の中、被害者も加害者も大学生同士という痛ましい事件。

現場に残されたマッチの燃え滓から、犯人を指摘する江神さん。容疑者を2人まで絞り込み、そのうちの1人が衝撃的な退場をする場面は背筋がひやりとする。

大学生が17名。登場人物を覚えるのが大変だが、そのことも伏線のひとつとなっている。

桜川のオフィーリア☆9月

「きれいとしか言いようがありません」

どの写真も、驚くほど美しかった。

有栖川有栖『桜川のオフィーリア』より

江神さんの友人で、EMCの創設者の一人である石黒操が訪ねて来た。旧友の急病のため彼の自宅を整理していたところ、高校時代に地元の川で亡くなった同級生女子の遺体写真が出てきたという。

あらすじだけ聞くと物騒ですが、情景描写が美しく、とても情緒的。結末も含めて大好きな作品です。相談者が悩みに悩んでいる一方、第三者の立場で話を聞いた、探偵役の江神さんやEMCの面々があっさりと謎を解くところも見どころの1つ。

ちなみに、亡くなった宮野の家族が移住を予定していた宗教の街・神倉は、長編第4作目『女王国の城』の舞台となります。

四分間では短すぎる☆10月

「このおにぎりは、どこにでもあるもんやない。食欲旺盛な後輩のために江神さんが階下の厨房を借りてお作りになったもんや。めったに口にできんわ」

有栖川有栖『四分間では短すぎる』より

京都駅の公衆電話で、アリスが偶然耳にした「四分間しかないので急いで。靴も忘れずに。……いや……Aから先です」という隣の男の発言。この発言の意図について、EMCの面々が江神さんの下宿でだらだらと過ごしながら推察する。

皆で飲み食いしながらああでもないこうでもないと持論を述べていく様子が面白い。個人的には、松本清張の『点と線』について望月・織田コンビが意見をぶつけ合う章も好きです。

開かずの間の怪☆11月

江神さんは、いつになく狼狽をにじませた口調で後輩たちに尋ねた。

「どういうことや。グルになって俺を嵌めようとしてるのか?」

有栖川有栖『開かずの間の怪』より

廃病院にある開かずの間を調査しに行く4人。体調不良で織田が離脱した直後、建物内で怪奇現象が発生する。残された3人は織田の犯行であると断定し、彼がどのようなトリックを使ったのか解明に乗り出す。

貴重な怪談風の物語。冒頭には南禅寺周辺にある信長さんの下宿が登場。立地が良すぎて羨ましい。

二十世紀的誘拐☆12月

「ろくに景色を見る間もなかった。初めて上ったのに」

日本海に面した宮津市出身とはいえ、この人だけは京都人だった。

有栖川有栖『二十世紀的誘拐』より

望月・織田コンビが所属するゼミの酒巻教授に頼まれ、誘拐された絵の身代金を運ぶことになった4人。その身代金は1,000円で、犯人は教授の弟。彼は何を目的としているのか?

身代金を運ぶため、京都駅烏丸口周辺を行き来するEMCの面々。指示されて上った京都タワーも含め、この界隈の土地勘があると更に楽しめる。

除夜を歩く☆12月

河原町通に出る手前に煙草屋があったので、江神さんはその店先の吸い殻入れに煙草を捨てた。そうなるようにタイミングを見計らって吸い始めたのだろう。こういう人だから、留年を繰り返すのも何らかの計画に基づいているのに違いない。

有栖川有栖『除夜を歩く』より

昭和最後の大晦日を、江神さんと2人で過ごすことにしたアリス。江神さんの下宿から八坂神社までの道中、2人は寒空の下でとりとめのない話をする。

天皇陛下が危篤状態の中で迎える、恐らく昭和最後の大晦日。八坂神社までの道中が賑わう、京都の大晦日。そしてミステリアスな先輩と2人で過ごす、特別な大晦日。非日常感が溢れる中で、2人の会話がどこまでも日常的であるというギャップが良い。

雑談の中に登場した「次の元号の頭文字となるアルファベットに賭けるとしたらどれが良いか」という話が個人的に好きで、改元の際には心の中でKに賭けていたが、まさかの大穴・Rだった。

1989年(アリス2回生)

蕩尽に関する一考察☆4月

僕の傍らで、赤い髪の女の子はぽつりと言った。

「……名探偵が、悲劇を未然に防いだのね」

有栖川有栖『蕩尽に関する一考察』より

最近、大学近くの古本屋店主の様子がおかしいとの噂が広まっている。本を破格で売り払ったり、代金を取らずに本を譲る行為を繰り返す彼には、一体どのような意図があるのか?

アリスの友人・マリアがEMCに加入する話。紅一点の彼女だが、他の4人に負けず劣らずのミステリ好き。ちなみに、マリアが所持していた絶版本「ナイン・テイラーズ」は、現在だと容易に入手できる。

老紳士は何故…?★6月

「ええ、弟のアリスと妹のマリア。私は長男でポールといいます」

有栖川有栖『老紳士は何故…?』より

マリアのアルバイト先である河原町の書店に、毎週土曜に訪れる老紳士。彼は必ず、千円札を五十円玉二十枚に両替するよう求めるのだが、一体何の目的があるのか?

老紳士を尾行する5人がとても愉快。四条河原町の交差点でクラクションを鳴らされるアリスとマリア。そして高島屋の入り口を手分けして見張る5人。この話も河原町周辺の土地勘があると更に面白い。

余談ですが、江神さんの全ての台詞の中で最も好きなものを選べと言われたら、上の引用文を選ぶと思う。

古都パズル★6月

「可愛いもんな」

誰もいなくなった教室で呟いてから、可愛いだけやないよ、と声に出さず思う。自分もまだ、彼女について大して知りもしないのに。

有栖川有栖『古都パズル』より

望月お手製の暗号文を解くことになったEMCの面々。京都の街にちなんだ暗号の意味を懸命に考える信長・アリス・マリアを尻目に、江神さんは出題者の一瞬の動作を頼りに宝物を見つけ出してしまう。

5人でランチを食べたり、京都の地図を見ながら謎を解いたりと、賑やかで楽しい大学生活の雰囲気がとても心地良い。また、今作以降は語り手のアリスの視点から溢れ出てくるマリアへの想いにも注目。アリスもマリアも可愛すぎて困る。

孤島パズル②

マリアはゆっくりと立ち上がってようやく僕の目を見た。

「アリス。私をボートに乗せて」

有栖川有栖『孤島パズル』より

長編第2作目。有馬家の別荘がある嘉敷島へやって来たアリス、マリア、そして江神さん。何者かによって通信手段を断たれ、迎えの船も来ない中、島の中で連続殺人事件が発生する。

島に3+1台しかない自転車のアリバイと、その車輪に轢かれた跡のある地図。少ない証拠から論理的に推理を組み立て、たった1人の犯人を導き出した江神さん。その淡々とした凄みは、他の探偵にはない個性だと思う。

被害者も加害者もマリアの親戚や長年の知人であり、彼女も相当な心の傷を負うことになる。この出来事が、次の長編『双頭の悪魔』へ繋がっていきます。

双頭の悪魔③

「でも、どんな理由にしても七つ違いの江神さんが同じ時期に英都大学にいてくれてよかった。私はそう思ってます」

有栖川有栖『双頭の悪魔』より

長編第3作目。孤立した芸術家の集落・木更村から帰ってこなくなったマリア。彼女を連れ戻すため、EMCの4人は隣村である夏森村から様子を伺うが、江神さんだけが木更村への侵入に成功する。マリアを連れ出そうとした矢先、木更村・夏森村の両方で殺人事件が発生し、2つの村を繋ぐ唯一の橋も落ちてしまう。

突然迷い込んだ場所でもマリアを助手とし、証拠を集めて犯人を導き出す江神さん。一方で、江神さん不在の中、夏森村の事件を解決しようと奮闘する3人。どちらも論理のみで犯人を特定した後、最後に動機によって2つの村が結びつく流れがとても綺麗で、段階を踏むごとに三度も読者への挑戦が入る構成も豪華。

2つの村で物語が同時進行するため、語り手がアリスとマリアの2名体制である点も見どころ。アリスのパート、最後の心の声がとても好きです。

女か猫か★11月

――君を前にして、君自身のことならいざ知らず、他の女の子の悩みに興味が湧くはずがないやろう。

有栖川有栖『女か猫か』より

女子学生3人組バンド・アーカムハウスとその作詞を担当する男子学生・三津木。4人での飲み会の最中、1人で離れの密室に残った三津木だが、翌朝、頬には大きな傷が。誰がどのように付けたのか?

マリアの友人であるバンドメンバー・シーナちゃんを救うため、江神さんに助けを求めるアリスとマリア。彼女のファンであるという理由で、望月・織田コンビが蚊帳の外に置かれているのが可笑しい。

江神さんの下宿を訪ねるシーンや、ラストの文化祭シーンなど見どころは多いが、冒頭の学食の場面で、マリア以外の女の子の悩みに今ひとつ興味を持てないアリスがとても可愛い。

推理研VSパズル研★12月

叫ぶ者あり、のけぞる者あり、息を呑む者あり。僕は、江神さんの顔をまじまじと見つめた。冗談を言っているのでないことを確かめるために。

有栖川有栖『推理研VSパズル研』より

望月・織田コンビが居酒屋で隣り合ったパズル同好会から論理パズルを出題される。EMCに持ち込まれたそのパズル自体は江神さんにより瞬時に解かれる。では、論理パズルによくある謎の村とは一体何なのか?EMCの面々は「推理研らしい」回答を探し求める。

論理パズルの「場面設定」について考える斬新な切り口の物語。EMCの面々がああでもないこうでもないと議論する様子が楽しい。

冒頭、新京極の居酒屋チェーン店で望月・織田コンビがパズル同好会と鉢合わせる場面は、漫才コンビの阿吽の呼吸を感じる上に、いつも以上に大学生の日常を覗き見している感じがする。

1990年(アリス3回生)

望月周平の秘かな旅★4月

私の大学生活はもう、四つある角のうちの三つを曲がって冬へと進んでいるのだ。

有栖川有栖『望月周平の秘かな旅』より

就職活動を目前に失恋をしてしまい、何事にも身が入らない望月。大学生協の書籍部で、補充の早すぎる本の謎についてEMCの面々と議論をするうちに、彼はあることを思いつき、寝台列車で旅に出ることにした。

モチさんの失恋旅行が描かれた当作。失恋の痛みと、モラトリアムの終わりが近づくことへの不安が入り混じる中、更に旅情も加わるため、感情が揺さぶられすぎて追いつかない。

大学生活を春夏秋冬に例えるならば、大学4年生の4月は冬の入り口だ、という冒頭の文章が好きです。初読の時よりも、実際に大学4年生になったときにより言葉の重みを感じた。

女王国の城④

名前を呼びながら、僕たちは急な階段を駈け下りる。先頭はお嬢さんだ。江神さんは動かず、僕たちが突進してくるのを、ただじっと見ている。化石になってしまったかのように。

有栖川有栖『女王国の城』より

長編第4作目。宗教団体「人類協会」の本部がある神倉に向かったまま帰らない江神さんを連れ戻すため、現地へ向かうEMCの後輩たち。協会の本部内で無事に対面は出来たものの、何かを隠す江神さん。その最中、施設内で殺人事件が発生するが、協会側は何故か警察への通報を拒む。協会の不手際を責めるうちに、第2、第3の殺人が起きてしまう。

クローズドサークルとなった施設内で起こった連続殺人事件。江神さんが論理によって犯人となる条件を導き出し、消去法で1人に絞り込んでいく過程は何度読んでも鳥肌が立つ。関係者全員を集めて行う謎解きである点も含め、個人的に最も好きな作品です。

また、連続殺人事件とは別件で、協会と江神さんのそれぞれがとあるカードを隠し持っており、その内容が最後まで明かされないことがもどかしい。しかし、全てが繋がった瞬間の驚きと感動はそのぶん大きい。2冊組の長編だが、起こる出来事の全てが伏線ではないかと思うほどの濃い作品。

EMCの後輩たちが皆、江神さんのことを好きで好きで堪らないことが伝わり、微笑ましい気持ちになる。そして、読者もきっと思うだろう。江神さんの後輩になりたい、と。

番外編

蒼ざめた星

この作品は、デビュー以来、東京創元社からぽつりぽつりと発表している江神二郎シリーズの一編なのだが、正規の作品として扱うつもりはない。

有栖川有栖『本格ミステリの王国』より

エッセイ集『本格ミステリの王国』に掲載されている、有栖川先生が同志社大学推理小説研究会の合宿中に執筆した犯人当て小説。正規の作品ではないが、Wikipediaがシリーズとして扱っているため 登場人物がEMCのメンバーであるため、番外編とした。手書き原稿のまま掲載されているという点でも珍しい作品。

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【有栖川有栖】火村英生シリーズ短編に登場する、人間味のある若者たちが好き

長年、好きな小説家の名前を問われた際には、迷わず有栖川有栖先生のお名前を挙げています。

自分自身の推理小説の好みが有栖川先生の作風とほぼ一致していることに加え、2つのシリーズで語り手となる2人のアリスの独白(地の文)がとても心地良いこと、探偵役である火村英生・江神二郎を始めとした登場人物が皆、魅力的に描かれていること、そして、「大阪」という街への愛が溢れているところが好きです。

今回、本来は素直に火村シリーズの好きな短編を挙げるつもりだったのですが、いざ選んでみると、どれも「作品内に登場する若者たちが魅力的だから」という共通の理由があったため、そちらに焦点を当ててみます。

「スイス時計の謎」より

あるYの悲劇

今日を最後に、この三人で演奏することはなくなるのだそうだ。これからどのように音楽を続けていくのか決めていないままで。

有栖川有栖『スイス時計の謎』

被害者である山元優嗣と同じバンド「ユメノ・ドグラ・マグロ」のメンバーであった浜本欣彦、沢口彩花、用賀明。

「若者たち」に注目するようになったきっかけの作品。火村とアリスが容疑者となったメンバー1人1人の元を訪れ、話を聞く。当然訪問の主旨はアリバイや動機について探ることだが、その過程で、彼らの人となりや音楽性、他のメンバーに対する思いが少しずつ明らかになっていき、読者視点ではその人物の生き様についてのインタビューを読んでいるような感覚になる。

優嗣の幼馴染であり、何かと世話を焼いていた彩花。音楽への情熱と拘りを持ち、優嗣と切磋琢磨していた浜本。人懐っこいが新参者である立場を弁え、一歩引いて他の3人を見つめる用賀。もう誰も犯人であってほしくない。

ミステリとしてのジャンルは、ダイイングメッセージものである。とても説得力があり、自分が被害者の立場でもこう書いただろうな、と思える。また、あるメンバーの自己紹介が伏線であった意外性にも驚く。

スイス時計の謎

私の手紙は、彼女の目にどう映っていたのだろうか?

有栖川有栖『スイス時計の謎』

かつて「優等生クラブ」の仲間として共に高校時代を過ごした6人と、彼らの同級生であったアリス。

彼らがお揃いで所持していた高級腕時計を起点として、5人の容疑者から論理的に犯人を絞り込む過程がとても美しく、本格ミステリの短編として長年人気の高い当作。

関係者全員を前にして行う火村の謎解きシーンが1番の見どころだが、かつての友人グループで、30代半ばの現在では出世レースの競争相手のようになってしまった容疑者たちそれぞれの人生も興味深い。加えて、彼らの同級生であったアリスが忘れられない、高校時代の根深いトラウマ。彼らとアリスの現在の姿に純粋な高校生であった時の姿が重なることにより、真相のやるせなさが更に増している。

余談だが、後の作品「カナダ金貨の謎」には、彼らのうちの1人が(電話だけの出演ではあるが)容疑者の従兄として再登場している。名前は書かれていないけれど、本作の最後にアリスが個人的なメッセージを残したあの人かなと思っている。

「妃は船を沈める」より

妃は船を沈める

ついでだから、彼らの演奏を視聴することにする。日比野と小川がアコースティックギターをかまえ、笠間がハーモニカ、いやブルースハープをポケットから取り出した。そして、さっきまでと人が変わったように快活な声で、ひと声叫ぶ。

「京橋はええとこだっせ!」

有栖川有栖『妃は船を沈める』

火村とアリスに容疑者の人となりを語った若者3人組・日比野、小川、笠間。

ミュージシャンの卵である3人。火村とアリスがご馳走したファミレスの食事を有り難がる姿が微笑ましい。お喋りな日比野、猿顔でツッコミ役の小川、そして朴訥とした笠間。短い場面の中でもテンポ良く流れる会話からそれぞれの人となりがよく分かる。だからこそ、路上ライブで意外な一面を見せる笠間に対して、語り手のアリスと一緒に驚くことができる。

ミステリとしては、意外な所から引きずり出される犯人の姿に思わず背筋が凍る。また「モンキーフェイス」が思わぬ形の伏線であるところにも注目したい。

残酷な揺り籠

満身創痍の女はまた少し黙ってから、儚げな声で呟いた。

「私、誰かと比べて棄てられたんかな」

繰り言だ。もう考えなさんな、と言ってやりたかった。

有栖川有栖『妃は船を沈める』

入院中に容疑者として事情聴取された、被害者の元交際相手・汐野亜美。

交際相手に振られた理由が分からないまま、ストーカーじみた行動をしてしまい、結果的にその相手を殺した容疑者として見られてしまう。被災による怪我もあり心身ともに限界である中、負けじと強気に質問に答える姿が印象的。とても勘が良く、語り手のアリスが彼女の頭の回転の良さに感心するのも頷ける。食堂の静けさの中、クールダウンした彼女がぽつりぽつりと被害者への思いを語り始める場面がとても切ない。

そしてこの物語の最大の見せ場である、火村と犯人との対峙シーンが圧巻。論理的に犯人を追い詰める火村と、狡猾に逃れようとする犯人。シリーズ屈指の手強い敵です。

「菩提樹荘の殺人」より

アポロンのナイフ

ーーいいですね。こんな池が近くにあって。

亀の池がいたく気に入った様子だ。まだしばらく動きそうにない。

有栖川有栖「菩提樹荘の殺人」

東京で連続無差別殺傷事件を起こし、関西へ逃亡してきた少年・坂亦清音。

指名手配犯である彼らしき少年に心当たりのあるアリス。作中では曖昧なままだが、ラストシーンの描写を踏まえると恐らく本人。回想シーンとして、四天王寺での彼との出会いが描写されている。亀の池をじっと見つめる彼が何を思っていたのかは分からないが、その穏やかな佇まいからは異様な雰囲気が全く感じられず、逆に底の知れない怖さがある。

この短編が好きすぎるあまり、四天王寺の亀の池を見に行ったことがある。この話はまた改めて書きたい。

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ミステリとしては、坂亦の事件と同時に大阪で発生した類似の事件がメイン。裏のテーマである「少年法」が、事件の真相にどう絡んでくるのか。こちらも見どころです。

雛人形を笑え

帯名雄大、矢園歌穂、伊場裕伸、小坂ミノリ。

漫才師を志した動機は人それぞれだったが、ノリでやってみて成功したら儲けもの、という感じの人間はいなかった。

有栖川有栖「菩提樹荘の殺人」

被害者である矢園歌穂を含めた4人の若手漫才師たち。

人気上昇中だった若手コンビ2人と、その元相方である2人。その複雑な関係性により、事件にほろ苦さが加わっている。事情聴取が進むにつれて、漫才への思いや元相方への思いなど、容疑者3人の人物像がどんどんクリアになっていく。

中盤に回想シーンとして登場する、旧雛人形の漫才。誰かを笑わせたいという純粋な思いに溢れていてとても好きな場面です。この場面の良さがあるからこそ、真相の苦味が増す気がする。

ちなみに、この短編の導入部である、アリスが喫茶店で仕事をしてから外を散歩するシーンが好きすぎて、愛染坂と大江神社にも行った。この話もまた改めて書きたい。

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「ミステリ作家たちの横顔展」を見るため、知らない街の図書館を訪れた話

12月某日、名古屋市郊外にある志段味図書館を訪れた。私はこの街とは一切の縁がなく、またこの図書館は観光地化しているような大規模なものでもなく、周辺にお住まいの方々が利用するごく一般的な公共施設である。

この「ミステリ作家たちの横顔展」は1年ほど前から全国各地を巡回しているのだが、遠方での開催が多く、機会に恵まれなかった。そんな中、名古屋での開催期間中にナゴヤドームへ行く用事があり、更にドームの最寄駅から乗り換えなしで行くことができることを知り、思いがけず知らない街を訪ねてみることになった。

「ゆとりーとライン」とは

ナゴヤドーム前矢田駅から図書館の最寄駅である上島(東)駅までは、「ゆとりーとライン」という名古屋ガイドウェイバスの路線を利用した。

www.guideway.co.jp

ガイドウェイバスとは線路のような軌道を普通のバスの車体が走る形の輸送システムであり、日本ではこのゆとりーとラインが唯一の路線とのこと。

また、ゆとりーとラインは高架を走る区間と一般道を走る平面区間を併用している。ドーム周辺は高架区間。モノレールのような駅と軌道だが、やってくるのは普通のバス。しかし軌道上を普段ではありえない速度で走るため、何だか愉快だった。ただ、周囲の乗客にとってはこれが日常。浮かれていたのは自分だけのようだ。

10分ほど走ると、高速道路を降りる時のように一般道へと緩やかに着地し、そのまま通常の路線バスとしての運行に切り替わった。信号で足止めされつつ、更に10分ほど走り、目的地へと到着。図書館はバス停のすぐ目の前にある。

名古屋市志段味図書館

帰り道に撮影した怪しい写真しか無かった。中央やや左の建物。

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館内にお邪魔してみると、子供数人が前を横切る。中高生が自習するような雰囲気というよりかは、児童書目当ての親子連れが多い気がした。そんな「地元の図書館」に、とても豪華な顔ぶれの先生方の手書き文字が並んでいるのが面白い。階段の踊り場から、2階ロビーにかけて展示されている。2階の部屋では何か催し物があるらしく、ロビーは貸し切り状態だった。

残念ながら撮影不可のため、穴が開かない程度に目に焼き付けてきた。

ミステリ作家たちの横顔展

実際に見た「落書き」をいくつか挙げます。記憶だけが頼りのため全く違うことを書いていたら申し訳ありません。

有栖川先生の「落書き」

有栖川有栖先生の展示物は、14歳の頃に書いた小説に登場する事件現場の見取り図。少年時代の自作を解説する有栖川先生のコメントにも心が和む。『やけた線路の上の死体』と同じ、南紀白浜が舞台とのこと。

綾辻先生の「落書き」

綾辻行人先生の展示物は『人間じゃない』の制作ノート。シンプルなメモの中央に描かれた、血を噴き出している棒人間のイラストが忘れられない。

青崎先生の「落書き」

青崎有吾先生の展示物は『アンデッドガール・マーダーファルス3』のイラスト。とても緻密で繊細な、絵本の挿絵のような一枚の絵が描かれていて驚いた。

北原先生の「落書き」

北原尚彦先生の展示物は古書の購入リスト。小さめのノートにかなり細かく本のタイトルが書き込まれていて、古書への愛とお人柄が伝わってくる。

喜国先生の「落書き」

喜国雅彦先生の展示物は『魔Qケン』の手書き原稿。ペン入れ前の下書きも赤い線で書き込まれていた。印刷だとなかなか味わえない手書きならではの迫力を間近で感じることが出来て嬉しい。

スペースに限りがあるので仕方がないが、前半組の展示しか見られなかったことだけが心残りだった。もし近くにお住まいの方がいれば、私の代わりに後半組の展示を是非見てください。

 

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小学1年生の自分に予算3万円でミステリ児童書をプレゼントするとしたら?真面目に選んでみた

「タイムスリップできるとしたら何がしたいか?」という定番の質問がある。

もし段ボール箱の持ち込みが可能なのだとしたら、四半世紀ほど過去に戻り、小学校へ入学する自分に、児童向けのミステリ本を山のようにプレゼントしたい。

なぜ児童書をプレゼントしたいか

現在ご活躍されている推理小説家の先生方や、コアなミステリファンの方々の大部分が、小学生の時点でホームズや少年探偵団の冒険譚に出会い、それらを夢中になって読んだ過去がある。

しかし自分自身は小学生時代に名探偵コナンを通じてその面白さに気がついたものの、小説を手に取るまでに時間がかかった。早く読み始めたことで何かが劇的に変わるわけではないが、それでも漠然とした憧れがある。子供の頃から推理小説を貪るように読んだ、という経歴に。

今回、本を選ぶルール

現在出版されている本から選ぶ

現在の自分がタイムスリップして本をプレゼントするという主旨であるため、当時ではなく、現時点で購入可能な本とする。なお、一応小学校入学祝いという名目のため、新品で購入する。

また、「購入可能」の判断基準は、現時点のAmazonにて新品の在庫が存在するかによる。

予算は税込3万円

他の誰でもない自分自身へのプレゼントであるため、予算は大奮発して3万円とする。なお、四半世紀前は消費税率が3%から5%に切り替わった頃であるが、買い物は現時点で行うため、今回の税率は10%とする。

活字の本とする

小説を手に取るきっかけを作るため、今回は活字メインの本を選ぶ。また、「小学校入学時点で読める本」ではなく、小学生のうちの任意のタイミングで読むことができれば良いものとする。

「活字メイン」かどうかは文字の分量と絵の分量のどちらが多いかで判断する。なお、ミルキー杉山の「あなたも名探偵」シリーズを絵本とするか小説とするかで小一時間悩んだが、絵の分量の方が多いと判断しこちらは絵本扱いとする。

※以下に挙げる作品は「幅広くすべての子供に勧めたい」という観点ではなく、あくまで「小学1年生の自分にプレゼントしたい」本として選んでいる。そのため、個人の好みの偏りがかなり現れていることをご理解ください。

プレゼントに選んだ児童向けミステリ

学研プラス「10歳までに読みたい」シリーズ

幅広く名作を取り扱う当シリーズから、ホームズ、ルパン、少年探偵団を選択。ちなみに、ここで紹介している本はすべて芦辺拓氏の編訳。

「10歳までに読みたい世界名作 名探偵シャーロック・ホームズ」

(税込968円)

「まだらのひも」「六つのナポレオン」「ノーウッドの怪事件」収録。巻頭フルカラーの「物語ナビ」でホームズとワトソンの関係性や各話のあらすじ、当時のロンドンの様子が描かれており、物語に入り込みやすい。小説部分も話がとてもコンパクトにまとまっており、飽きずにテンポよく読むことが出来る。

ちなみに2022年12月現在、kindle unlimitedの読み放題対象となっているため、試し読みどころか1冊まるごと読むことができます。

「10歳までに読みたい世界名作 怪盗アルセーヌ・ルパン」

(税込968円)

同じ『世界名作』から、こちらはルパン。「怪盗ルパン対悪魔男爵」「怪盗ルパンゆうゆう脱獄」の2話収録。もちろんこちらも「物語ナビ」付き。ルパンがとてもイケメンに描かれている。

「10歳までに読みたい日本名作 少年探偵団」

(税込1,034円)

江戸川乱歩も押さえておきたい。『日本名作』から少年探偵団を選択。絵のタッチが柔らかく、少し不気味な世界観の乱歩作品でも安心。明智小五郎はもちろん、小林少年や団員たちのイラストがかわいい。

先程から絵のことばかり触れているが、小学生時代の自分はずっとコナンのアニメの死体の描写が苦手で直視できない子供だったため、絵のタッチは重要確認事項だと思っている。

「10歳までに読みたい名作ミステリー 名探偵シャーロック・ホームズ」

全5冊(税込5,170円)

先程選んだホームズは『世界名作』の中の1冊だったが、同じ形式でホームズのみの単独シリーズがあるためこちらも選択。全5冊。

「10歳までに読みたい名作ミステリー 怪盗アルセーヌ・ルパン」

全5冊(税込5,170円)

同じくルパンだけの単独シリーズもある。ホームズと同様に全5冊。

ちなみに、恐らく先程挙げた『世界名作』が好評だったためこの単独シリーズが発売されたのだと思われるが、1冊+5冊の関係性が少し分かりづらい。知らずに購入しようとすると戸惑うかもしれない。

角川つばさ文庫「見習い探偵ジュナの冒険」シリーズ

計1冊(税込792円)

エラリー・クイーンにも触れておきたいが、児童書が殆ど存在しない。こちらは元々子ども向けに別名義で書かれた作品。本編にも登場し、クイーン家の家事を担当する少年ジュナを主人公としたシリーズ。

実は角川つばさ文庫からシリーズとしてもう1冊「幽霊屋敷と消えたオウム」が存在するが、新品では手に入らないため除外した。

講談社青い鳥文庫「名探偵夢水清志郎の事件簿」シリーズ

全14冊(税込12,947円)

大食いで記憶力がなく生活力が皆無の「教授」こと夢水清志郎が、数々の事件を皆が幸せになるように解決するシリーズ。

『普段は変わり者だが、推理を始めると切れ者になる探偵』『謎解きシーンでは皆を集めて「さて」と言う』など推理小説の醍醐味のようなものを教えて貰った、個人的に思い入れのある作品。

ちなみにKindle版だと安価で読めるため、久しぶりに読みたくなった大人の皆様には電子書籍を勧めたい。

登場人物の1人であるレーチが好きすぎて、こんな記事を書いてしまった。

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講談社青い鳥文庫「金田一くんの冒険」シリーズ

全2冊(税込1,364円)

本編では17歳(高校2年生)の金田一一(はじめ)が、青い鳥文庫では12歳(小学6年生)。本編と同じく、自らが巻き込まれる事件を解決するシリーズ。

幼馴染の七瀬美雪を始め、千家貴司や村上草太など、本編ではお馴染みの友人たちが登場するのも嬉しい。個人的には、物語の語り手が12歳の美雪である点が魅力だと思っている。

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講談社「ミステリーランド」シリーズ

数々の推理作家が子供向けに描いた作品を集めた講談社の「ミステリーランド」。少し難易度が上がるため、小学校高学年くらいのタイミングで読みたい。

今後の本選びのことも踏まえ、是非名前を覚えてほしい作者の作品を選択。

綾辻行人「びっくり館の殺人」

(税込748円)

あの「館シリーズ」の中の1冊で、唯一子供向けに書かれた作品。○○トリックの面白さを味わえるという点では良いのだが、少々トラウマになりそうな内容ではある。『中村青司』や『鹿谷門実』という名前を記憶に残し、後々「十角館の殺人」に出会ったときにびっくりさせたい。

有栖川有栖「虹果て村の秘密」

(税込704円)

少年少女が訪れた辺鄙な村で発生した事件を解決する、古典的な本格ミステリを子供向けに描いた作品。小説家志望の主人公が憧れている推理小説家(ヒロインの母)のアドバイスがいくつも登場するが、どれも沁みる。

「自分が好きなように書いたものを、見ず知らずの人が好きになってくれる。それは奇跡みたいなことだけど、でも、不可能じゃない」

有栖川有栖『虹果て村の秘密』

加えて、有栖川先生によるあとがきも好き。推理小説を書くことになった経緯や奥様とのエピソードがとても素敵。

ちなみに、同シリーズの麻耶雄嵩「神様ゲーム」を入れるかどうか迷ったが、あの結末は絶対にトラウマになると思ったのでやめた。

以上、合計29,865円

今気づいたが、タイムスリップに重量制限があったらどうしよう

おまけ:「北村薫と有栖川有栖の名作ミステリーきっかけ大図鑑」

小説ではないため選べなかったものの、今後読む本を自分で選ぶという点ではガイド系の本も手元に欲しい。当時は出版されていなかったが、ある意味、小学校の図書室で1番出会いたかった本かもしれない。

【夢水清志郎】探偵助手・レーチの文学的苦悩を振り返る【はやみねかおる】

幼い頃からの読書好きなら避けては通れない「青い鳥文庫」。このレーベルの人気シリーズといえば、はやみねかおる氏の「名探偵夢水清志郎事件ノート」です。

ミステリ好きの登竜門のようなこの作品。その名のとおり名探偵の役割を担うのは「教授」こと夢水清志郎です。しかし、今回焦点を当てるのは、その夢水清志郎の探偵助手を名乗る中学生・レーチこと中井麗一です。

青い鳥文庫「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズとは

三つ子の中学生・岩崎亜衣、真衣、美衣の家の隣の洋館へ引っ越してきた謎の男・夢水清志郎(通称「教授」)。生活力皆無の彼は自分のことを「名探偵」と称し、亜衣たちの身の回りで起こる事件を皆が幸せになるように解決していきます。

教授が関わる事件はどれも警察沙汰にはなるものの、殺人が起こらないため、青い鳥文庫の対象年齢である良い子の皆さんにも堂々とおすすめできます。

「レーチ」とは

岩崎亜衣のクラスメイトで同じ文芸部に所属する中井麗一。物語の語り手である亜衣によると「長髪の野蛮人」で「知性が零(ゼロ)」。レーチという呼び名もそこから来ています。文芸部では自分の存在自体が詩であると言い張り、創作活動は一切行いません。

初登場となる「亡霊は夜歩く」にて、亜衣となかなかいい感じになる(ように見える)のですが、後続の巻では付かず離れずの絶妙な距離感。いわゆる友達以上恋人未満の関係です。

レーチは五十円玉を銀のくさりに通して、わたしの首にかけてくれる。レーチは背が低いから、のびあがるようにしないとかけられなかった。

『亡霊は夜歩く』はやみねかおる

小説家を目指す亜衣が、初めて自分のファンから対価として貰った五十円。この「五十円玉のネックレス」は、亜衣とレーチの関係性を表す重要なアイテムとして、最終巻まで随所に登場します。

レーチの文学的苦悩

亜衣の目線では残念な感じで語られがちなレーチ。しかし、シリーズの一部作品の中で、物語の幕間としてレーチが語り手となる章が登場することがあります。それが「レーチの文学的苦悩」

亜衣へ片想いする素直な気持ちが真っ直ぐに、切々と描かれているこの章を読むと、本編だけでは分からなかったレーチの良さがひしひしと伝わってきます。

電話機と格闘するレーチの後ろ姿。時代が変わり電話の概念が変わっても、陰ながら応援したくなる姿です。

レーチの文学的苦悩

「踊る夜光怪人」収録

実際に自分のことを思考の中で「おれ」と呼べるようになったとき、ぼくはきっと、一人前になったような気がするんだろう。

『踊る夜光怪人』はやみねかおる

亜衣を祭りに誘うため、自宅の黒電話と奮闘するレーチ。うじうじしている間に亜衣から逆に誘われ、祭りに行くことは出来たのだが……。

本編ではマイペースで我が道を行くタイプのように見えるレーチですが、実は自分に自信がなく、亜衣を祭りに誘う電話すらかけることができません。

亜衣は自分のことをどう思っているのだろう。自分の長髪を世間に理解されなくてもいい、ただ、亜衣にだけは理解してほしい。レーチの真っ直ぐな「好き」の気持ちが垣間見えます。

レーチの思いが(若干)報われる本編ラストにも注目。

レーチの文学的苦悩Ⅱ

「いつも心に好奇心!」収録

亜衣をデートにさそったとして、どこへいけばいいんだ?

『いつも心に好奇心!』 はやみねかおる・松原秀行

今回も黒電話と格闘するレーチ。亜衣をデートに誘うべく、デートコースの下見をしているうちに、偶然、亜衣と出会うことになり……。

空回りすぎて可哀想な結末。

ちなみにこの本は、他シリーズ(松原秀行「パスワード」シリーズ)との合同作品となっており、番外編のような位置付けです。現在は絶版な上に電子書籍化もされていないため注意。

レーチの文学的苦悩Ⅲ

「人形は笑わない」収録

夢をみているのは、わかってる……。

『人形は笑わない』 はやみねかおる

映画撮影のため、鞠音村へ合宿に来た文芸部の面々。監督を務めることになったレーチは夜、夢を見るのだが……。

微笑ましい夢だと思いきや、一転してホラーな展開に。この夢は一体何を暗示しているのだろうか。

本編の見どころとしては、レーチを慕う文芸部の1年生・一ノ瀬くんが、その理由を亜衣にだけこっそり教えてくれるシーンがあります。同性の後輩の目線から見るレーチの姿が新鮮。

レーチの文学的苦悩・修学旅行スペシャル

「あやかし修学旅行」収録

「おれは、おまえにも、みやげを買う。文句ないだろ。」

『あやかし修学旅行』はやみねかおる

楽しい修学旅行の夜、お土産を買いに行こうと亜衣に誘われたレーチ。土産物屋の店頭で、亜衣は、文芸部の後輩・千秋へのお土産を買うようレーチに勧めるのだが……。

「修学旅行のしおり」が本編に綴じ込まれている、お祭り気分で楽しい一冊。特にレーチの文学的苦悩では、修学旅行の夜の自由時間の空気を味わうことができ、青春のおすそ分けをして貰っているかのような気持ちになる。

自分に好意を抱いている千秋に、お土産を渡したくないレーチ。そこでレーチがとった行動がとても良い。亜衣に対する思いが溢れんばかりに伝わってくる、シリーズの中で1番好きなシーンです。

実は巻頭の目次の上に、この場面が挿絵として描かれています。村田四郎さんの描く、満足そうなレーチの横顔、必見です。

レーチの文学的苦悩Ⅳ

「笛吹き男とサクセス塾の秘密」収録

そう、ぼくはぼくなんだ。この根っこの部分さえ忘れなければ、なにがおきようとあわてることはない。

『笛吹き男とサクセス塾の秘密』はやみねかおる

進路のことで悩むレーチ。ふと思い出した昔のある言葉をきっかけとし、小学校時代の恩師を訪ねることになるのだが……。

将来「何になりたいか」が分からない…レーチと同じ悩みを抱えたことがある人も多いのではないでしょうか。

周りの皆のように夢や目標がない。自信を失い、立ち止まったレーチに先生がかけた「中井くんは、特撮変身ヒーローにでもなるつもりですか?」という一言がとても身に染みる。こんな言葉をかけてくれる先生と出会いたかった。

ちなみにこの回、レーチの姉・中井さなえも登場します。弟とは真逆の豪快な姉さんです。

レーチの文学的クリスマス

「ハワイ幽霊城の謎」収録

同行者が、多すぎる!

『ハワイ幽霊城の謎』はやみねかおる

亜衣をクリスマスのデートの誘おうと、毎度お馴染みの黒電話と格闘するレーチ。そしてやはり亜衣から逆にお誘いを受けることになるのだが、その内容は想像以上のもので……。

2人きりになりたいという、たったそれだけの願いが叶わない。そろそろレーチが不憫になってくる。

その思いが通じたのか、本編の中盤ではやっと2人きりになれたのですが、直後に大変な目に遭っています。ピンチの時に意外と頼りになるレーチの姿も見どころです。

レーチの文学的苦悩Final

「卒業~開かずの教室を開けるとき~」収録

※最終巻のネタバレを含みます

「……いままでありがとう。」

おれは、心の底からの感謝をこめて、黒電話に頭をさげた。

『卒業~開かずの教室を開けるとき~』はやみねかおる

卒業が迫る中、レーチは亜衣と同じ高校へ行くことを辞め、ある決断をする。その結果を亜衣に伝えるべく、レーチは黒電話と最後の対決に挑む。

自分の意思で、大きな決断をしたレーチ。この章の後半で心の中での一人称が「ぼく」から「おれ」に切り替わると同時に、黒電話の声が聞こえなくなります。『レーチの文学的苦悩』(初回)での伏線が綺麗に回収されている。

本編では、別れの挨拶としてレーチが亜衣にかけた言葉がとても良い。思いの強さとレーチらしさを感じる素敵なセリフです。

レーチの文学的苦悩・新たなる戦い

「名探偵と封じられた秘宝」収録

※最終巻のネタバレを含みます

がんばったよ、おれ!

『名探偵と封じられた秘宝』はやみねかおる

高校卒業後、新天地で懸命に生きるレーチ。日本の高校に通う亜衣の声を聞くため、異国の公衆電話を手に取るが……。

亜衣たち三姉妹と教授の物語は一旦幕を閉じ、新シリーズでは新たな主人公と教授が活躍しています。そのシリーズ3作目の当作には、スペシャルゲストとして高校生になった三姉妹が登場。そして、レーチの文学的苦悩も。

言葉の通じない土地で健気に頑張るレーチの姿に胸が熱くなりますが、根本的な部分が良くも悪くも変わっておらず、微笑ましい気持ちになります。お決まりの流れで不本意な結果に終わりますが、亜衣も変わらず元気そうで良かった。

いつかまたどこかで、教授のような立派な探偵になったレーチの姿が見られる日が来ることを、楽しみにしています。

 

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誠文堂新光社のミステリ系〇〇語辞典が面白い

最近はネット書店で電子書籍を購入することが多く、リアル書店に並べられた本と一期一会の出会いをする機会が少なくなってしまいました。

だからこそ、たまに衝撃的な出会いがあるとその思い出がいつまでも残ります。数年前にいわゆる「ジャケ買い」をして、そのままシリーズ数冊を集めた書籍があるため紹介します。

誠文堂新光社「〇〇語辞典」とは?

www.seibundo-shinkosha.net

価格千円台、フルカラーのソフトカバー単行本。食べ物、スポーツ、作家など幅広いジャンルのいわゆる「専門用語」をまとめた辞典。どの本もあ行から順に語句がずらりと並んでおり、そのうえ可愛らしいイラストも沢山あるため、眺めているだけでも飽きない。

個人的にガイド本や攻略本の類いが好きなので、今までありそうで無かった嬉しいシリーズ。

ミステリ系の〇〇語辞典

実際に購入したミステリ系辞典・3冊について。なお、ページの試し読みは各種オンライン書店にて可能です。言葉での説明には限界があるため、是非ページ全体の雰囲気を見ていただきたい。

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シャーロック・ホームズ語辞典

事件名や人物名からホームズの名言、そしてホームズにちなんだ作品のタイトル名までが並んでいます。可愛らしいタッチのイラストと、実際の挿絵タッチのイラストが要所要所で使い分けられているところも良い。付録として、ホームズの時代のロンドンの地図や、時系列に並んだホームズ解決事件すごろくが付いているのも豪華。

見どころは見開き2ページにわたるベイカー街221B(ホームズ自宅)の見取図。かなり緻密な絵で、余白全体にぎっしりと注釈がつけられています。

金田一耕助語辞典

金田一耕助語辞典のイラストはほのぼの系。ゆるいテイストの金田一耕助が可愛らしい。巻末の金田一パタパタ着せ替えも必見です。

しかし、死体の描写の残酷さに定評(?)のある金田一シリーズ。死体のイラストはほのぼの系から一転してグロテスクに描かれています。死体のイラストのみを見開き2ページに集めた「殺害カタログ」が怖すぎる。小学生の頃の自分が見たら絶対に泣いている。

個人的には、辞典内に「金田一少年の事件簿」の項目があったことがとても嬉しい。

江戸川乱歩語辞典

こちらは一転して、乱歩作品のイメージ通りの妖艶なタッチのイラストが並んでいます。明智小五郎のイラストが格好いい。前の2冊と比べ、写真も多く掲載されている気がします。

綴じ込み付録として様々なジャンルの文化人の方々(綾辻行人・有栖川有栖 両先生から小学5年女子までいる)が好きな乱歩作品ベスト3を挙げているのですが、見事にバラバラであったことが興味深い。

ミステリ系以外の○○語辞典

出版社公式サイトにて「辞典」で検索したところ、このシリーズは他にも約30冊ほどあるようです。カレー、コーヒー、チョコレート、野球、鉄道、宝塚、着物、城……ジャンルが幅広いので、誰でも1冊は心に刺さるものが見つかるかと思います。

個人的に今後購入してみたい辞典を2つ選びました。

パン語辞典

今回改めてミステリ系以外にどんな辞典が出ているのか調べたのですが、このパン語辞典、随分前に書店で気に入って眺めていた本でした。やはりこの辞典形式が物珍しかったのと、ほのぼのとしたタッチのイラストが可愛らしかったことがとても印象に残っています。このシリーズの1冊だったとは。

そして何年経っても好みが変わらないことに衝撃を受けました。今度は是非購入してゆっくり読みたい。

将棋語辞典

女流棋士の香川愛生さんが監修している将棋語辞典。「将棋の渡辺くん」を読んだりAbemaで対局の中継を見たりしてはいるものの、何となく雰囲気で覚えてしまった用語がかなりあるため、読みやすいこのシリーズで復習するのも良いかもしれない。

実物を見てみたいので、久しぶりに大型書店に行ってみようと思います。

 

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【法月綸太郎】図書館司書・沢田穂波とリファレンス・コーナーで仲良く事件を紐解く短編をまとめる

法月綸太郎シリーズが好きです。先日、「法月綸太郎の消息」文庫版の発売をきっかけに、父と息子が自宅リビングで謎を解く安楽椅子探偵型の短編をまとめました。

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短編集のタイトルとなった綸太郎の消息も気になるところですが、それ以上に気になるのが綸太郎といい仲(?)だった図書館司書・沢田穂波の消息です。初期の短編に多く登場していましたが、お元気にしているのだろうか。

主な2人の登場人物

法月綸太郎とは

締め切りと日々戦う推理小説家。長身でこざっぱりとした外見。本業の他、捜査一課の非公式ブレーンを務めたり、区立図書館のリファレンス・コーナーに足繁く通ったりしている。

沢田穂波とは

区立図書館で司書として働く女性。色白で気が強そうな顔立ち。大きな黒縁眼鏡をかけている。綸太郎を上手くコントロールし、尻に敷いている。可愛くて賢い。

 

「法月綸太郎の冒険」より

図書館関連の日常の謎が4編。どれも事件の解決を穂波が綸太郎へ依頼し、綸太郎が一肌脱ぐ、といった流れです。

切り裂き魔

「さあ、正直に白状なさい。何が目当てで足繫くここに通ってくるのか。答えられないのなら、今すぐ切り裂き魔捜しの仕事を引き受けてもらうわよ、好色探偵さん?」

『法月綸太郎の冒険』切り裂き魔 より

区立図書館の蔵書のうち、推理小説の名作ばかりが扉のページを切り取られる被害に遭っていた。犯人である「切り裂き魔」の目的は何なのか?

自分に好意を向ける綸太郎を、掌で転がしている穂波。しかし、鼻の下を伸ばす様子が図書館職員の間で笑い種になっている綸太郎も綸太郎なので、決して文句は言えない。

切り裂き魔の動機については、外にも手段はあったのにどうしてページを切り取らなければならなかったのか、という疑問にも細かく例を挙げてカバーしている点が面白い。油断したところで来る最後のオチも良い。

緑の扉は危険

「わたし、休みの日はコンタクトにしてるの」

綸太郎は穂波をにらんだ。

「―—ずるいぞ、そういうのは」

「あら、今のはひとりごとよ」

『法月綸太郎の冒険』 緑の扉は危険 より

以前より図書館への蔵書寄贈を希望していた資産家が、首を吊って亡くなった。しかし、遺族である資産家の妻が、蔵書寄贈を頑なに拒んでいる。なぜ妻は蔵書を手放したくないのだろうか?

綸太郎を上手く操り、休日出勤のアッシーとして呼び出す穂波。簡単に穂波の言いなりにはならない、という綸太郎の固い(?)意思が崩されるのが早すぎる。

開始時点では日常の謎だったものが、密室殺人事件の解決に結びつく流れが鮮やかで好きです。ざっと書庫を眺めただけで、妻が蔵書に対して金銭的価値を期待していないことを見抜いたり、必要とあらば父を使って警察を動かしたりできる綸太郎が、穂波にだけは頭が上がらない様子が可笑しい。

土曜日の本

「でも、沢田さんは来られなくて、ずいぶん悔しがってましたね」

詩子の姿が見えなくなると、松浦が口を開いた。

「あれで見かけによらず、ヤジウマ精神旺盛な人だからさ。でも、仕事がある以上、いくら悔しがったって、仕方ないもんね。いっひっひっひっひっひ」

と綸太郎。まるで筒井康隆である。

『法月綸太郎の冒険』 土曜日の本 より

「五十円玉二十枚の謎」の短編依頼に苦しむ綸太郎の元へ、大学生・松浦がやって来る。友人の詩子が、アルバイト先で五十円玉男に遭遇したという。五十円玉男の目的とは何なのか?

冒頭に穂波は登場しますが、今回の現場でワトソン役となるのは「切り裂き魔」で知り合った大学生・松浦。松浦が綸太郎のファンということもあり、師弟関係のようで微笑ましい。いつも穂波にやられっぱなしの綸太郎が、陰で言いたい放題(引用文)なところも面白い。

余談ですが、レジで千円札を五十円玉二十前に両替する男を巡る「五十円玉二十枚の謎」は、作家の若竹七海氏の実体験。その謎解きとして競作されたうちの1作品が、この「土曜日の本」です。

過ぎにし薔薇は……

「全く頼りにならない探偵さんだこと」

「面目ない」

綸太郎は小さくなってうなだれた。

『法月綸太郎の冒険』 過ぎにし薔薇は…… より

区立図書館で、毎日3冊の本を借りる女性。彼女は本の内容には興味を示しておらず、また、他の図書館でも毎日同じ行動を繰り返していた。彼女の目的は何なのか?

穂波の依頼とあれば、図書館のハシゴまでして対象者を尾行する綸太郎が健気すぎる。本の小口(天井部分)だけを見て借りる本を決めている女性の境遇が明らかになる過程で、本のつくりや装丁家の仕事についての知識も得られる「図書館探偵」らしい一編です。

「法月綸太郎の新冒険」より

こちらは「~冒険」とは毛色が異なり、3編のうち1編が番外編のような位置づけで、2編が実際の殺人事件に関わることになります。

イントロダクション

「相性占い?」

「いいえ」穂波の返事はそっけない。「あなたがひとりで占うのよ」

『法月綸太郎の新冒険』 イントロダクション より

映画までの時間潰しに、ゲームセンターへ入る綸太郎と穂波の掌編。プリクラを拒否した綸太郎は、相性占いの機械を試すことに。オチが大変なことになっています。

背信の交点

それでも、こうして二日間の旅程が終わりに近づき、東京まで余すところ一時間半を切ったとなると、すこしずつ夏の終りを感じさせる夕映えの景色と重ね合わせて、だんだん名残り惜しい気分になってくるから、不思議なものだ。そういう感覚は、穂波も共有していると見えて、軽口をたたきながら、どことなく表情がもの憂げになっている。

『法月綸太郎の新冒険』 背信の交点 より

「あずさ68号」の車内で、1人の男性が毒を飲んで死亡した。一方、松本駅ですれ違う「しなの23号」の車内でも、同様の状況で死亡した女性が発見される。2つの事件はどのように繋がっているのか?

図書館長の急病により、穂波と2人で信州出張へ行く権利を手にした綸太郎。昼はフォーラムに出席、夜は遅くまで穂波の部屋で水道管ゲームをし、翌日は安曇野の観光コースをてくてく歩いたとのこと。綸太郎の期待する結果とは違ったようですが、仲が良くて羨ましい限り。

しかし楽しい2人旅の終盤、前の座席の客が不審死。父・法月警視が事件提供者であるおかげで綸太郎はこの手のパターンにあまり遭遇しませんが、さすがは名探偵、引きが強い。捜査が進むにつれ、被害者2名の真の関係性が浮かび上がってくる流れに引き込まれます。終盤の犯人と綸太郎との対峙シーンも、犯人がとても手強く、手に汗握ります。個人的に穂波が登場する短編の中で1番好きな作品です。

リターン・ザ・ギフト

法月警視がにらんだ通り、同じ火曜日の午後、綸太郎は行きつけの区立図書館に来ていた。二階の一般閲覧室、リファレンス・カウンターに頬杖をついて、沢田穂波がパソコンのキーボードを打つ姿にじっと見入っている。

『法月綸太郎の新冒険』 リターン・ザ・ギフト より

女性の住居へ侵入し殺人未遂の疑いをかけられた容疑者が、ある人物から女性の殺害を依頼されたと供述した。法月警視率いる捜査班がその人物のアパートへ向かったところ、部屋は既にもぬけの殻で、現場には交換殺人を示唆する書籍が残されていた。この事件は、どのような構造になっているのか?

事件解決に穂波の証言が必要となり、区立図書館を法月警視が訪ねてきます。息子がそこで鼻の下を伸ばしていることなど先刻承知な警視。また、中盤は法月家リビングでの安楽椅子探偵パートとなります。綸太郎が淹れてくれたコーヒーでは物足りずアルコールを欲しがったり、綸太郎が温めてくれた冷凍のピザに文句を付けつつ平らげるお茶目な警視(?)も見どころの1つ。

加えて、図書館カウンターで穂波を相手に綸太郎が行う「真犯人の条件である4つの可能性の検証」も読みごたえがあります。終盤の、記憶力の良い穂波による何気ないたった1つの証言で事件の構造が紐解かれるシーンも面白い。

 

穂波が登場する作品は以上となりますが、読者が知らないだけで、今日も綸太郎は区立図書館のリファレンス・コーナーで鼻の下を伸ばしているのかもしれません。穂波の尻に敷かれる綸太郎の姿を、またどこかで見られるといいなと思います。

 

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【法月綸太郎】父・法月警視と自宅で仲良く安楽椅子探偵の短編をまとめる【消息】

法月綸太郎シリーズの短編集「法月綸太郎の消息」の講談社文庫版が先日発売されました。単行本発売時に読了済みではありますが、どちらにしろ大好きなシリーズなので嬉しい。

当作には短編4編が収録されていますが、そのうちの2編が、法月家リビングで行われる毎度恒例の安楽椅子探偵ものです。息子の綸太郎と父である法月警視が、ビールやコーヒーを片手に親子水入らずで現在捜査中の事件についてああでもないこうでもないと語り合う様子がとても微笑ましい。

そこで、シリーズ短編集6冊の中から、綸太郎が法月家リビングから一歩も外に出ずに事件を解決する作品をまとめました。意外と少ない。短編集の刊行順で、古い方から並べます。

たった2名の登場人物

法月綸太郎 (息子)

締め切りと日々戦う推理小説家。長身でこざっぱりとした外見。本業の他、捜査一課の非公式ブレーンを務めている。父に対して敬語を使う。

法月貞雄 (父)

警視庁捜査一課の警視。「定年間近」であるため恐らく50代後半。捜査が難航するたび息子をブレーンとして召喚しているが、職場では黙認されている。愛煙家。妻とは死別しており、息子とずっと親一人子一人で暮らしてきた。

 

法月綸太郎の功績

都市伝説パズル

「お互いにこれで、痛み分けというところだな」

しょんぼりしている綸太郎を励ますように、法月警視が声をかけた。キッチンから戻ってきたところで、両手に新しく作り直した飲み物を持っている。

『法月綸太郎の功績』 都市伝説パズル より

殺人事件の現場に、血文字で「電気をつけなくて命拾いしたな」とメッセージが残されていた。巷で流行りの都市伝説と全く同じ状況だが……

自宅でのディスカッションにより、親子がそれぞれ疑っていた容疑者2名の犯行を否定し、ダークホース的な立ち位置の真犯人を論理的に導き出す過程がとても美しい。なぜわざわざ手間暇かけて都市伝説に見立てたのか、という疑問への回答にも綺麗に繋がります。

本格ミステリとしての美しさ、法月父子の微笑ましさ、最後の締めでホラーに転じる物語の流れ、すべてが贅沢すぎる大好きな一編です。

縊心伝心

もし自分が独立して、この家を出るつもりだと告げたら、定年間近のやもめの父親はどんな顔をするだろう?

『法月綸太郎の功績』縊心伝心 より

自殺予告をした後、自室で首を吊った女性。その死体には他殺の痕跡が残っていた。ただ、有力な容疑者には強固なアリバイがあり……

父の老後に思いを馳せつつ、実はこの瞬間もすっかり惚けた父と自分の妄想の世界なのかもしれない、とにやけながら考えている綸太郎の姿が微笑ましい。そして2人分のブラックコーヒーを淹れてくれる警視がかわいい。

事件については、〇〇〇の存在に思い至った途端、今まで舞台の袖にいた容疑者が一瞬にして引き摺り出されてくる構図が面白い。飛び降り自殺に偽装しなかった理由への繋がり方が綺麗。

犯罪ホロスコープⅡ

宿命の交わる城で

「おっと危ない、重要証拠物件のコピーを返し忘れた。内容は部外秘だから、俺が自分の部屋で着替えている間に、盗み読んだりするなよ」

「はいはい」

『犯罪ホロスコープⅡ』宿命の交わる城で より

同時期に起きた2つの殺人事件現場に、デザイン違いの同じタロットカードが残されていた。綸太郎はこの2つの事件を、交換殺人として結び付けたのだが……

帰宅時の手土産として白々しく捜査資料のコピーを投げてよこす警視も、その芝居に律儀に付き合い警視がいない間に資料に目を通す綸太郎もかわいい。

事件が日を追うごとに二転三転し、ただの交換殺人では終わりません。個人的には、冒頭に登場する「正義」のタロットカードの説明文が、資料の引用文に見せかけた伏線であるところが好きです。

法月綸太郎の消息

あべこべの遺書

たらふく夕食をごちそうになって十一時過ぎに家に帰ると、一足先に帰宅した父親がひとりわびしく、カップ麺をすすっていた。

『法月綸太郎の消息』あべこべの遺書 より

同時期に死亡した2つの遺体。それぞれが相手の自宅で、相手の遺書と共に発見された。2人は無理心中ではなく、生前は恋敵だったようだが……

過去作よりも法月警視のお茶目な描写が多く、人間味に溢れている。資料の文字サイズに文句を付ける様子がとてもリアル。コーヒーの濃淡で警視を陰ながらコントロールする綸太郎もなかなかの策士。

殺さぬ先の自首

「うん、その誰かというのはあれだ、要するにお前の母さんのことなんだが」

お前の母さん……。

思いもよらない発言に、綸太郎は言葉をなくした。

『法月綸太郎の消息』 殺さぬ先の自首 より

「私は人を殺しました」と警察署へ自首した男。その時点では相手の生存が確認されたのだが、後ほど本当に殺人事件が発生し……

冒頭からいつもの様子と違い、歯切れの悪い警視。事件関係者の中に、死別した妻と話し方や声つきが似た女がいたとのこと。

いつものように事件解決の目処がたち和やかに幕が下りる様子とは全く異なり、不穏な雰囲気のまま物語が閉じます。ちなみに法月母については「雪密室」にも記載があります。

 

老いを感じる描写が増えていますが、法月警視がいつまでもお元気で、綸太郎と仲良く事件について語り合う日々が続けばいいなと思います。恐らく作中世界はサザエさん状態ですが、そのまま永遠に警視の定年が来ないでほしい。

 

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↑ 綸太郎と穂波についてはこちらに書きました。

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↑ 余談ですが、個人的好みとしては「都市伝説パズル」と「死刑囚パズル」が同率1位です。

【金田一くんの冒険】七瀬美雪12歳の視点で語られる、もう1つの「金田一少年の事件簿」【青い鳥文庫】

17歳の高校生である金田一一(はじめ)を主人公とした漫画「金田一少年の事件簿」。現在は青年誌イブニングにて連載が再開されています。

また、現在は連載が中断されていますが、37歳になったはじめを主人公とした「金田一37歳の事件簿」も話題になりました。

さて、本編の17歳と近年話題の37歳の他に、小学生6年生のはじめ(12歳)の活躍について描かれた作品があることをご存じでしょうか。講談社青い鳥文庫から2018年に出版された、「金田一くんの冒険」シリーズ(既刊2巻)です。

児童書レーベルである青い鳥文庫のため、対象年齢は作品内のはじめ・美雪と同じ小学生。この手の本はキャラクター設定だけを借り、他の作者が文章を書いていることも多くありますが、当作は本編と同じく天樹先生が文章を、さとう先生が挿絵を担当しています。お子様向けと侮ってはいけません。

12歳のはじめもやはり事件に巻き込まれ、ジッチャンの名にかけて真相解明に取り組み、謎はすべて解けたと宣言した後、関係者を集めて犯人はこの中にいると語り出します。青い鳥文庫版であっても、お決まりの流れは健在です。

また、物語の語り手が12歳の美雪である点も面白い。はじめへの思いが聡明な美雪の視点で文章化されていて分かりやすいうえ、その素直さに思わずキュンとさせられる場面もあります。

12歳のはじめと美雪の日常

はじめと美雪は不動小学校の6年生。隣同士の家で生まれ育った幼馴染の2人は、幼いころから互いの家に預けられ、親しい関係性を築いてきました。

はじめは学校ではしょっちゅう先生に怒られ、授業態度は不真面目。休み時間には悪友たちとエッチな遊びで盛り上がっています。生徒会活動も行うしっかり者の美雪とは正反対。

そして2人は「冒険クラブ」に所属し、放課後に活動を行っています。このクラブ活動へ参加することにより、はじめは事件に巻き込まれていきます。

1巻「からす島の怪事件」

はじめちゃんは、ふといマユ毛をキリリとよせていった。

「この謎は、かならずオレがといてみせる。名探偵といわれた、ジッチャンの名にかけて!」

『金田一くんの冒険 からす島の怪事件』より

あらすじ

冒険クラブは太平洋の離れ小島である「からす島」へ夏合宿に向かいます。目的はこの島に隠された金銀財宝を探すことでしたが、島での調査中、人を喰う妖怪「島姥」の伝説を知ることになります。そんな中、一緒に上陸したリゾート開発会社の2人が失踪してしまい……

はじめが解く謎

  • 姿を消した2人はどこへ行ったのか?
  • 露天風呂に現れた「島姥」の正体は?
  • 砂浜で発見された人骨は誰のものか?

見どころ

過疎の島へのリゾート開発に現代の「姥捨て」。さすがは金田一シリーズ、12歳にしては重い動機です。姿を消した2人の謎は、種明かしを聞けば単純な仕掛けですが、盲点があり意外と気が付かない。序盤に大きな伏線がありますが、語り手である美雪に感情移入しすぎると見逃します。

また、美雪の視点で語られる、推理モードに入ったはじめの格好良さについての描写がどれもとても良い。漫画とはまた違う楽しみ方ができます。

2巻「どくろ桜の呪い」

「なぁ、美雪……。」

だまって廊下を歩いていたはじめちゃんが、わたしにむきなおっていった。

「この謎は、ぜったいにオレがといてみせるよ。名探偵といわれた、ジッチャンの名にかけて!」

『金田一くんの冒険2 どくろ桜の呪い』より

あらすじ

冒険クラブは6年生の教室で発生した黒板落書き事件の犯人「どくろ先生」を捜すことになります。どくろ先生は近日中に切られる予定の「どくろ桜」にどうしても人を近づけたくないようです。そんな中、どくろ桜を切るか残すかを決める全校生徒投票が行われることになり……。

はじめが解く謎

  • 「どくろ先生」がはじめ達を美術倉庫に閉じ込めた方法は?
  • 「どくろ先生」の正体は?
  • 「どくろ先生」が騒ぎを大きくした目的は?

見どころ

事件の動機は、過去の些細なすれ違いや思い込みにあります。ミスリードによって、読者も犯人と同じ勘違いをさせられてしまう。この手の流れは本編にもよく出てきますが、それが凄惨な殺人事件に発展してしまう本編と比べると救いのある結末です。

また、ワトソン役である美雪のサポートが、推理面でも精神面でも手厚くとても12歳とは思えない。はじめと美雪の信頼関係が、既に出来上がっているともいえます。

はじめの友人①千家貴司

「金田一くんの冒険」には、シリーズではお馴染みのはじめの友人が2人登場します。そのうちの1人が千家貴司。2巻に生徒会長として登場する彼は、秀才かつ優等生ですが、はじめのことを何かとライバル視しているようです。

17歳となった本編にも、変わらずはじめの友人として登場する千家。「首吊り学園殺人事件」でははじめや美雪と一緒に事件に巻き込まれた仲でもあります。そんな千家が「魔犬の森の殺人」で、あのような事になるとは……。

はじめの友人②村上草太

はじめのもう1人の友人である草太。真面目で勉強もできる彼ですが、12歳のはじめの一番の友達で、冒険クラブのメンバーでもあります。1巻、2巻どちらもはじめと行動を共にし、事件に巻き込まれてしまいます。

17歳となった本編でも、変わらずはじめの気のいい友人として登場し、「獄門塾殺人事件」では事件にも巻き込まれています。また、彼は37歳の時点でもはじめの飲み友達として登場します。地元信用金庫の課長となり、2児の父となった草太。彼だけは今後も無事であってほしい。

 

 ↓ 37歳のはじめと美雪について書きました 

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↓ 台湾の思い出

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