17歳の高校生である金田一一(はじめ)を主人公とした漫画「金田一少年の事件簿」。現在は青年誌イブニングにて連載が再開されています。
また、現在は連載が中断されていますが、37歳になったはじめを主人公とした「金田一37歳の事件簿」も話題になりました。
さて、本編の17歳と近年話題の37歳の他に、小学生6年生のはじめ(12歳)の活躍について描かれた作品があることをご存じでしょうか。講談社青い鳥文庫から2018年に出版された、「金田一くんの冒険」シリーズ(既刊2巻)です。
児童書レーベルである青い鳥文庫のため、対象年齢は作品内のはじめ・美雪と同じ小学生。この手の本はキャラクター設定だけを借り、他の作者が文章を書いていることも多くありますが、当作は本編と同じく天樹先生が文章を、さとう先生が挿絵を担当しています。お子様向けと侮ってはいけません。
12歳のはじめもやはり事件に巻き込まれ、ジッチャンの名にかけて真相解明に取り組み、謎はすべて解けたと宣言した後、関係者を集めて犯人はこの中にいると語り出します。青い鳥文庫版であっても、お決まりの流れは健在です。
また、物語の語り手が12歳の美雪である点も面白い。はじめへの思いが聡明な美雪の視点で文章化されていて分かりやすいうえ、その素直さに思わずキュンとさせられる場面もあります。
12歳のはじめと美雪の日常
はじめと美雪は不動小学校の6年生。隣同士の家で生まれ育った幼馴染の2人は、幼いころから互いの家に預けられ、親しい関係性を築いてきました。
はじめは学校ではしょっちゅう先生に怒られ、授業態度は不真面目。休み時間には悪友たちとエッチな遊びで盛り上がっています。生徒会活動も行うしっかり者の美雪とは正反対。
そして2人は「冒険クラブ」に所属し、放課後に活動を行っています。このクラブ活動へ参加することにより、はじめは事件に巻き込まれていきます。
1巻「からす島の怪事件」
はじめちゃんは、ふといマユ毛をキリリとよせていった。
「この謎は、かならずオレがといてみせる。名探偵といわれた、ジッチャンの名にかけて!」
『金田一くんの冒険 からす島の怪事件』より
あらすじ
冒険クラブは太平洋の離れ小島である「からす島」へ夏合宿に向かいます。目的はこの島に隠された金銀財宝を探すことでしたが、島での調査中、人を喰う妖怪「島姥」の伝説を知ることになります。そんな中、一緒に上陸したリゾート開発会社の2人が失踪してしまい……
はじめが解く謎
- 姿を消した2人はどこへ行ったのか?
- 露天風呂に現れた「島姥」の正体は?
- 砂浜で発見された人骨は誰のものか?
見どころ
過疎の島へのリゾート開発に現代の「姥捨て」。さすがは金田一シリーズ、12歳にしては重い動機です。姿を消した2人の謎は、種明かしを聞けば単純な仕掛けですが、盲点があり意外と気が付かない。序盤に大きな伏線がありますが、語り手である美雪に感情移入しすぎると見逃します。
また、美雪の視点で語られる、推理モードに入ったはじめの格好良さについての描写がどれもとても良い。漫画とはまた違う楽しみ方ができます。
2巻「どくろ桜の呪い」
「なぁ、美雪……。」
だまって廊下を歩いていたはじめちゃんが、わたしにむきなおっていった。
「この謎は、ぜったいにオレがといてみせるよ。名探偵といわれた、ジッチャンの名にかけて!」
『金田一くんの冒険2 どくろ桜の呪い』より
あらすじ
冒険クラブは6年生の教室で発生した黒板落書き事件の犯人「どくろ先生」を捜すことになります。どくろ先生は近日中に切られる予定の「どくろ桜」にどうしても人を近づけたくないようです。そんな中、どくろ桜を切るか残すかを決める全校生徒投票が行われることになり……。
はじめが解く謎
- 「どくろ先生」がはじめ達を美術倉庫に閉じ込めた方法は?
- 「どくろ先生」の正体は?
- 「どくろ先生」が騒ぎを大きくした目的は?
見どころ
事件の動機は、過去の些細なすれ違いや思い込みにあります。ミスリードによって、読者も犯人と同じ勘違いをさせられてしまう。この手の流れは本編にもよく出てきますが、それが凄惨な殺人事件に発展してしまう本編と比べると救いのある結末です。
また、ワトソン役である美雪のサポートが、推理面でも精神面でも手厚くとても12歳とは思えない。はじめと美雪の信頼関係が、既に出来上がっているともいえます。
はじめの友人①千家貴司
「金田一くんの冒険」には、シリーズではお馴染みのはじめの友人が2人登場します。そのうちの1人が千家貴司。2巻に生徒会長として登場する彼は、秀才かつ優等生ですが、はじめのことを何かとライバル視しているようです。
17歳となった本編にも、変わらずはじめの友人として登場する千家。「首吊り学園殺人事件」でははじめや美雪と一緒に事件に巻き込まれた仲でもあります。そんな千家が「魔犬の森の殺人」で、あのような事になるとは……。
はじめの友人②村上草太
はじめのもう1人の友人である草太。真面目で勉強もできる彼ですが、12歳のはじめの一番の友達で、冒険クラブのメンバーでもあります。1巻、2巻どちらもはじめと行動を共にし、事件に巻き込まれてしまいます。
17歳となった本編でも、変わらずはじめの気のいい友人として登場し、「獄門塾殺人事件」では事件にも巻き込まれています。また、彼は37歳の時点でもはじめの飲み友達として登場します。地元信用金庫の課長となり、2児の父となった草太。彼だけは今後も無事であってほしい。
↓ 37歳のはじめと美雪について書きました
↓ 台湾の思い出