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【メフィスト】文芸誌の連載を追いかける楽しみ【日本扇の謎】

講談社の文芸誌「メフィスト」にて、有栖川有栖先生の火村英生シリーズ最新作『日本扇の謎』の連載が始まりました。

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とても書籍化など待ってはいられないのでいつも文芸誌を購入することになるのですが、既に次回が待ち遠しくて仕方がない。

しかし、そのじれったい思いを乗り越えてでも、少しずつ連載を追いかける良さがあります。第2回までまだまだ時間があるので、近年の事例を振り返ることで気を紛らわそうと思う。

※書籍化済みの2作品について、説明の都合上、物語の展開に触れる表現があります(直接的なネタバレはありません)。

文芸誌連載のここが良い

現在地が何合目か分からない

文芸誌の連載を追いかけて読む場合と、1冊の本となった状態で読む場合。両者の大きな差は、自分がいま読んでいる箇所が物語全体のどの地点かを把握できるかどうか、だと思う。

紙の本を読む場合は、ページの進み具合を目視することにより、無意識のうちに今何%の地点を読んでいるのかが分かってしまう。電子書籍の場合は一見分かりにくいが、現在読んでいる章のタイトルや現時点の%表示をワンタッチで表示することができるため、やはり無意識のうちに把握してしまう。

その一方、文芸誌の連載では、読者はそれらを把握することができない。登山に例えると、地図を持たずに登り始め、山頂までの所要時間も分からず、現在自分が山の何合目にいるのかさえもはっきりとしない状況なのかもしれない。しかし、この不安定さが癖になる

強制的に足止めされる

また、1冊の本を読む場合とは異なり、強制的に「次回へ続く」で足止めされてしまう。どんなに展開が気になり、ノンストップで読み続けたかったとしてもそれは叶わない。

個人的に、少なくとも推理小説のジャンルでは「結末を知りたい」という欲に負けてしまい読書を中断することができない。しかし、強制的にページを捲る手を止められることにより、あの人が怪しい、あれは伏線だろうか、今後の展開はどうなるのだろうか、と一旦状況を整理することができる。結果として、物語を丸呑みせず、たくさん噛み締めて味わえることになる。

『インド倶楽部の謎』の場合

講談社 メフィストにて、全3回(2017 vol.3〜2018 vol.2)の連載の後に書籍化されています。

物語全体は6章構成。講談社ノベルスのKindle版によると、全3回の連載は以下のようなペース配分となっていました。

第1回

第1章から第2章の1まで(14%地点)

関係者全員の素性が明かされ、第1の事件の死体発見シーンまでが描かれる。被害者の身元は判明しない。火村とアリスは登場するが、まだ捜査には加わっていない。

→被害者が誰なのかを考えながら次回を待っていた。結果的に、この時点までの登場人物の中に居たのだが、良くも悪くも「殺されそう」な感じではなかったため驚いた。

第2回

第2章の2から第3章の終わりまで(42%地点)

第1の事件の被害者の身元が判明。続いて第2の事件が発生したところで、火村とアリスが捜査へ参加。容疑者の約半数へ聞き込みを行う。途中、謎が1つ浮上するが、火村にはほんのりと検討がついているとのこと。

→謎(なぜ被害者の死亡する日を予告出来たのか)について考えながら次回を待った。この謎がどのように事件に絡んでくるのかという点も含め、全く予想がつかなかった。気を落ち着かせるため、作中に登場する神戸の各所について片っ端から調べた。(後日実際に行った)

第3回

第4章から最後まで

4章の初めから起承転結でいう「転」にあたる(と思われる)部分が始まり、そこから一気に結末まで向かった印象。

→かなり大きな「転」であったため、今まで次回を待ちながら何となく考えていた物語全体のイメージからがらりと雰囲気が変わり、驚いた。ちなみに火村・アリスと犯人との対峙シーンが情緒的でとても好きです。

『捜査線上の夕映え』の場合

別冊 文藝春秋にて、全4回(2021年5〜11月号)の連載の後に書籍化されています。

物語は序章+6章の全7章構成。書籍のKindle版によると、全4回の連載は以下のようなペース配分となっていました。

第1回

序章のみ(7%地点)

アリスの小旅行、事件の発生、火村とアリスのリモート通話のシーンが描かれる。事件現場では「謎の指紋」が登場。

→容疑者は登場せず、どのような事件なのかまだよく分からない。アリスの小旅行に登場したおおさか東線や時の広場について調べながら次回を待った。(後日実際に行った)

第2回

第1章から第3章の終わりまで(43%地点)

第1章にて「ジョーカー」というキーワードが登場。3人の容疑者についても明かされる。また「サングラスの男」や「孔雀」など、素性の分からない人物が捜査線に浮上してくる。

→謎の人物が多く登場したため、考える楽しみがあった。特に「ジョーカー」については、単なる容疑者ではないようだが、事件全体にどのように関わってくるのか全く予想がつかなかった。

第3回

第4章から第5章の2まで(67%地点)

サングラスの男」と「孔雀」の素性が判明。また「謎の指紋」の持ち主も判明。この時点で火村には事件の全容が見えている。また、この回の最後の一文がとんでもない威力の『引き』となっており、同時に「ジョーカー」が何を表していたのかについても判明する。

配信日の深夜に読んでいたところ、驚愕のあまり背筋がぞっとしたことを今でも覚えている。この驚きと「ここで終わるの!?」という気持ちを噛み締められることが連載の醍醐味だと思う。今までの連載と『怪しい店』の該当部分を何度も読み返して次回を待った。

第4回

第5章の3から最後まで

容疑者のバックグラウンドを探りながら、まだ解明できていない事件の穴を埋めていく。最後に火村とアリスが対峙したのは、犯人ではなくある人物だった。

→今作も論理的に犯人を指摘する役割は火村、動機を考える役割はアリス、と役割が分担されている。2人の阿吽の呼吸が見られる点に加え、犯人特定の過程から動機を切り離しているところが個人的に好きです。

『日本扇の謎』はどうなる?

※作品の内容には一切触れていません。

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過去の事例を振り返ると、第1回目は大部分が序章であり、初回のイメージだけでは物語全体の方向性は全く分からない。悪あがきはやめて大人しく次回を待つことにしたい。

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黒猫モチーフがとてもお洒落。なお、「メフィスト」は数年前より会員限定販売となっており、書店には並んでいないため注意。