「タイムスリップできるとしたら何がしたいか?」という定番の質問がある。
もし段ボール箱の持ち込みが可能なのだとしたら、四半世紀ほど過去に戻り、小学校へ入学する自分に、児童向けのミステリ本を山のようにプレゼントしたい。
なぜ児童書をプレゼントしたいか
現在ご活躍されている推理小説家の先生方や、コアなミステリファンの方々の大部分が、小学生の時点でホームズや少年探偵団の冒険譚に出会い、それらを夢中になって読んだ過去がある。
しかし自分自身は小学生時代に名探偵コナンを通じてその面白さに気がついたものの、小説を手に取るまでに時間がかかった。早く読み始めたことで何かが劇的に変わるわけではないが、それでも漠然とした憧れがある。子供の頃から推理小説を貪るように読んだ、という経歴に。
今回、本を選ぶルール
現在出版されている本から選ぶ
現在の自分がタイムスリップして本をプレゼントするという主旨であるため、当時ではなく、現時点で購入可能な本とする。なお、一応小学校入学祝いという名目のため、新品で購入する。
また、「購入可能」の判断基準は、現時点のAmazonにて新品の在庫が存在するかによる。
予算は税込3万円
他の誰でもない自分自身へのプレゼントであるため、予算は大奮発して3万円とする。なお、四半世紀前は消費税率が3%から5%に切り替わった頃であるが、買い物は現時点で行うため、今回の税率は10%とする。
活字の本とする
小説を手に取るきっかけを作るため、今回は活字メインの本を選ぶ。また、「小学校入学時点で読める本」ではなく、小学生のうちの任意のタイミングで読むことができれば良いものとする。
「活字メイン」かどうかは文字の分量と絵の分量のどちらが多いかで判断する。なお、ミルキー杉山の「あなたも名探偵」シリーズを絵本とするか小説とするかで小一時間悩んだが、絵の分量の方が多いと判断しこちらは絵本扱いとする。
※以下に挙げる作品は「幅広くすべての子供に勧めたい」という観点ではなく、あくまで「小学1年生の自分にプレゼントしたい」本として選んでいる。そのため、個人の好みの偏りがかなり現れていることをご理解ください。
プレゼントに選んだ児童向けミステリ
学研プラス「10歳までに読みたい」シリーズ
幅広く名作を取り扱う当シリーズから、ホームズ、ルパン、少年探偵団を選択。ちなみに、ここで紹介している本はすべて芦辺拓氏の編訳。
「10歳までに読みたい世界名作 名探偵シャーロック・ホームズ」
(税込968円)
「まだらのひも」「六つのナポレオン」「ノーウッドの怪事件」収録。巻頭フルカラーの「物語ナビ」でホームズとワトソンの関係性や各話のあらすじ、当時のロンドンの様子が描かれており、物語に入り込みやすい。小説部分も話がとてもコンパクトにまとまっており、飽きずにテンポよく読むことが出来る。
ちなみに2022年12月現在、kindle unlimitedの読み放題対象となっているため、試し読みどころか1冊まるごと読むことができます。
「10歳までに読みたい世界名作 怪盗アルセーヌ・ルパン」
(税込968円)
同じ『世界名作』から、こちらはルパン。「怪盗ルパン対悪魔男爵」「怪盗ルパンゆうゆう脱獄」の2話収録。もちろんこちらも「物語ナビ」付き。ルパンがとてもイケメンに描かれている。
「10歳までに読みたい日本名作 少年探偵団」
(税込1,034円)
江戸川乱歩も押さえておきたい。『日本名作』から少年探偵団を選択。絵のタッチが柔らかく、少し不気味な世界観の乱歩作品でも安心。明智小五郎はもちろん、小林少年や団員たちのイラストがかわいい。
先程から絵のことばかり触れているが、小学生時代の自分はずっとコナンのアニメの死体の描写が苦手で直視できない子供だったため、絵のタッチは重要確認事項だと思っている。
「10歳までに読みたい名作ミステリー 名探偵シャーロック・ホームズ」
全5冊(税込5,170円)
先程選んだホームズは『世界名作』の中の1冊だったが、同じ形式でホームズのみの単独シリーズがあるためこちらも選択。全5冊。
「10歳までに読みたい名作ミステリー 怪盗アルセーヌ・ルパン」
全5冊(税込5,170円)
同じくルパンだけの単独シリーズもある。ホームズと同様に全5冊。
ちなみに、恐らく先程挙げた『世界名作』が好評だったためこの単独シリーズが発売されたのだと思われるが、1冊+5冊の関係性が少し分かりづらい。知らずに購入しようとすると戸惑うかもしれない。
角川つばさ文庫「見習い探偵ジュナの冒険」シリーズ
計1冊(税込792円)
エラリー・クイーンにも触れておきたいが、児童書が殆ど存在しない。こちらは元々子ども向けに別名義で書かれた作品。本編にも登場し、クイーン家の家事を担当する少年ジュナを主人公としたシリーズ。
実は角川つばさ文庫からシリーズとしてもう1冊「幽霊屋敷と消えたオウム」が存在するが、新品では手に入らないため除外した。
講談社青い鳥文庫「名探偵夢水清志郎の事件簿」シリーズ
全14冊(税込12,947円)
大食いで記憶力がなく生活力が皆無の「教授」こと夢水清志郎が、数々の事件を皆が幸せになるように解決するシリーズ。
『普段は変わり者だが、推理を始めると切れ者になる探偵』や『謎解きシーンでは皆を集めて「さて」と言う』など推理小説の醍醐味のようなものを教えて貰った、個人的に思い入れのある作品。
ちなみにKindle版だと安価で読めるため、久しぶりに読みたくなった大人の皆様には電子書籍を勧めたい。
登場人物の1人であるレーチが好きすぎて、こんな記事を書いてしまった。
講談社青い鳥文庫「金田一くんの冒険」シリーズ
全2冊(税込1,364円)
本編では17歳(高校2年生)の金田一一(はじめ)が、青い鳥文庫では12歳(小学6年生)。本編と同じく、自らが巻き込まれる事件を解決するシリーズ。
幼馴染の七瀬美雪を始め、千家貴司や村上草太など、本編ではお馴染みの友人たちが登場するのも嬉しい。個人的には、物語の語り手が12歳の美雪である点が魅力だと思っている。
講談社「ミステリーランド」シリーズ
数々の推理作家が子供向けに描いた作品を集めた講談社の「ミステリーランド」。少し難易度が上がるため、小学校高学年くらいのタイミングで読みたい。
今後の本選びのことも踏まえ、是非名前を覚えてほしい作者の作品を選択。
綾辻行人「びっくり館の殺人」
(税込748円)
あの「館シリーズ」の中の1冊で、唯一子供向けに書かれた作品。○○トリックの面白さを味わえるという点では良いのだが、少々トラウマになりそうな内容ではある。『中村青司』や『鹿谷門実』という名前を記憶に残し、後々「十角館の殺人」に出会ったときにびっくりさせたい。
有栖川有栖「虹果て村の秘密」
(税込704円)
少年少女が訪れた辺鄙な村で発生した事件を解決する、古典的な本格ミステリを子供向けに描いた作品。小説家志望の主人公が憧れている推理小説家(ヒロインの母)のアドバイスがいくつも登場するが、どれも沁みる。
「自分が好きなように書いたものを、見ず知らずの人が好きになってくれる。それは奇跡みたいなことだけど、でも、不可能じゃない」
有栖川有栖『虹果て村の秘密』
加えて、有栖川先生によるあとがきも好き。推理小説を書くことになった経緯や奥様とのエピソードがとても素敵。
ちなみに、同シリーズの麻耶雄嵩「神様ゲーム」を入れるかどうか迷ったが、あの結末は絶対にトラウマになると思ったのでやめた。
以上、合計29,865円。
今気づいたが、タイムスリップに重量制限があったらどうしよう。
おまけ:「北村薫と有栖川有栖の名作ミステリーきっかけ大図鑑」
小説ではないため選べなかったものの、今後読む本を自分で選ぶという点ではガイド系の本も手元に欲しい。当時は出版されていなかったが、ある意味、小学校の図書室で1番出会いたかった本かもしれない。