【映画「燃えよ剣」】原作と併せて読みたい関連作品をまとめる【司馬遼太郎】

映画「燃えよ剣」関連でもう1つだけ書きたいことがあります。今回は(後半部分は)沖田総司控えめなのでご安心ください。

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↑沖田総司が濃すぎる記事

 

映画「燃えよ剣」の原作は、司馬遼太郎の小説「燃えよ剣」です。新選組副長・土方歳三の剣に生きた生涯を描いています。

この小説が原作であることに概ね間違いはないのですが、実際は「燃えよ剣」を大きな柱として、細かいエピソードの部分は同著者の別作品からも採用されています。以下の2冊です。

併せて読むとより楽しめますし、映画に登場したあの人物が気になっていたのに出番が少なかった!という人も納得の2冊。せっかく魅力的な登場人物が沢山いるのに、映画の尺が短すぎる。

「新選組血風録」

新選組の隊士たちを描いた15の短編が収録されています。普段目立たない隊士が主役として登用されていたり、近藤土方沖田が脇役として要所要所に出てくる所も新鮮。新選組の日常編といった趣でとても面白かったです。

短編15編のうち、沖田総司の登場箇所の多い5篇を挙げます。

芹沢鴨の暗殺

映画に登場する芹沢鴨のエピソードの多くが、この短編から採用されています。前半部分、芹沢の動向を土方へにこにことしながら報告する沖田が可愛らしい。

「(前略)私はああいう芹沢先生が好きだな。こそこそおどさずに、白昼、堂々と大砲でおどす。―――」

「もういい。引きとりたまえ」

司馬遼太郎「新選組血風録」芹沢鴨の暗殺 より

好きだなと言いつつ芹沢を斬ることが決まれば一の太刀を所望するのが恐ろしい。

また、映画にも少しだけ登場していたお梅さん関連のことが詳しく書かれています。やはりいつもの調子で土方に報告する沖田が可愛らしいのと、実際にお梅さんに応対した土方がその色香に当てられ珍しく狼狽えているのが面白い。

「うといな。永倉さんなどにいわせると、ああいう逸物は江戸でもみたことがないそうです。あの女がくると、隊の者はみんなさわぎます。私はあんな感じの婦人はきらいだけど」

「なんだ、婦人のはなしか」

「いやだな。馬のはなしだとでも思ったのですか」

司馬遼太郎「新選組血風録」芹沢鴨の暗殺 より

虎徹

近藤局長の異常なまでの虎徹信仰を描いた作品。映画でも、鈴木亮平さん演じる近藤勇が虎徹の評判を聞き明らかに目の色を変えるシーンが印象的でしたが、この短編でも「虎徹」という概念に囚われすぎている近藤の様子を土方、斎藤が一歩引いて見ているのが面白い。

「おどろいたな」沖田は、笑った。

「京では、すし屋に入っても、何藩の何某であると名乗るのですか」

司馬遼太郎「新選組血風録」虎徹 より

相変わらず飄々としている巡察中の沖田。犬の知識について山南と張り合う所も年相応な感じが出ていて好きです。

三条磧乱刃

隊士・国枝大二郎の目線を通じて、源さんこと井上源三郎の人柄を描いた短編です。初対面の失態から「お宗旨さん」と呼ばれている国枝が、隊の中で少し見くびられている源さんへ向ける敬意が清々しい。また、2人が敵討ちに向かったことを知った際の近藤土方沖田の慌て具合から、試衛館組の仲間意識の高さが伺えます。

「井上さんは六十じゃありませんよ。なるほど隊じゃ飛びぬけて年配だけど、それでも四十三、四です。しかし、六十とはよかったなあ」

「申し訳ありません」

「いいよ、そう見られた井上のおじさんのほうが悪いんだもの」

司馬遼太郎「新選組血風録」三条磧乱刃 より

入隊時に出会った謎の老人のことを沖田に尋ねる場面です。映画のキャスティングに関して、40代の源さんを撮影時70歳前後のたかお鷹さんが演じるのは不自然、という意見を見たことがありますが、むしろアラフォーの役者が多い中、飛びぬけて年配に見えなければいけないのでそこまでの違和感はないと思います。

沖田総司の恋

病状が悪化し医者通いをしていた沖田が、その医者の娘(お悠)に恋をする話です。体調の変化とお悠への恋、2つの隠し事をしている沖田がいじらしい。

「なんでも相談してくれないとこまる」「そうします」「それとも、あの娘がめあてかね」「ち、ちがいます。―――あんな」「あんな、なんだ」「あんないい娘が、私になんぞ、好いてくれるものですか」「なにもそこまでは訊いていないよ、総司」

司馬遼太郎「新選組血風録」沖田総司の恋 より

ただ、沖田のことを大層かわいがっている土方にはどちらもバレてしまいます。誰よりも沖田の身を案じている近藤・土方の両者は沖田のためを思う一心であることをしますが、その思いが空回りした挙句、悲しい結果に終わってしまいます。

「いや、ちがうんです。私はただ、あの娘をつまり、遠眼でみているだけでよかったんです。―――それを」

言おうとしたが、言葉にならなかった。

司馬遼太郎「新選組血風録」沖田総司の恋 より

近藤・土方の気持ちは分かるが、そういうことを望んでいたわけではないのに。沖田の気持ちが痛いほど伝わり、とても好きなのですが読むのがつらい一編です。

菊一文字

愛刀・菊一文字を軸に沖田の人柄を描いた短編です。笑顔を見せながらも飄々とし時には容赦がない性格の沖田ですが、ここでは大切な刀を大事にするあまり出し惜しみしてしまうという、人間らしい一面が見られます。自分の死が迫っていることが分かるからこそ、この菊一文字則宗が七百年生き続けていることに特別な感情を抱いている沖田。ただ、この愛刀を思う純粋な気持ちが、悲しい事件を引き起こしてしまいます。

「花橘町の辻で、お前が戸沢鷲郎を切っておれば、この男は死なずにすんでいる。」

刺すような眼でいった。眼、言葉つき、態度、土方は決して隊士に好かれたことのない男だが、総司に対してこういう眼をしたことは、かつてなかった。

「無用の物惜しみをするからだ」

司馬遼太郎「新選組血風録」菊一文字 より

日頃沖田をあんなにも溺愛している土方が冷たい目を向けるのにも無理はありません。沖田はこの出来事にどう始末をつけるのか、ぜひ読んでみてください。

「王城の護衛者」

こちらも短編集。映画と関連しているのは以下の2編です。

王城の護衛者

映画「燃えよ剣」の影の主役と言っても過言ではない、松平容保の生涯を描いた短編。その大部分が映画に盛り込まれています。

「一藩、京を戦場に死ぬ覚悟でゆこう。もはや言うべきことはそれしかない」

司馬遼太郎「王城の護衛者」王城の護衛者 より

粗筋だけではなく、劇中で印象的だった「死後、仏とはならぬ。神となる」「血で汚れた会津」などの台詞が原作そのままであることが分かります。

容保はもともと自分に政治感覚がなく、機略縦横の才が皆無であることを知っていた。策謀の才がなかった。自分の家来の会津人の特性がそうであることを知っていた。

司馬遼太郎「王城の護衛者」王城の護衛者 より

映画を見て、容保の人柄や会津藩が辿る運命に心を打たれ、すぐにこの「王城の護衛者」を読みました。影の主役級の扱いといえども映画では脇役、気になる存在であった容保のエピソードを補完することができて良かったです。私事ですが、会津ではないものの福島出身のため刺さるものがあります

また、映画にて、容保が降伏時に孝明帝からのお手紙を文字通り肌身離さず身に着けていた場面がとても印象的だったので、この短編の結末にえました。

人切り以蔵

映画では村上虹郎さんが演じた岡田以蔵。劇中では唐突に土方との切り合いが始まるように感じるため、得体の知れないまま退場してしまう印象ですが、どのような人物で、なぜ土方が報告を受けて以蔵の元へ切り込みに行ったのかは、こちらの短編を読むことで見えてきます。

いままで、天誅、勤王、という「正義」があったればこそ、以蔵も気負い、無造作に人も斬れた。その「正義」が以蔵の足もとから消滅すると、以蔵はただの以蔵になった。

司馬遼太郎「王城の護衛者」人切り以蔵 より

立場は違えど、以蔵も土方と同じく剣に生きた人間。映画にはその2人の対峙シーンがあります。

燃えよ剣

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  • 岡田准一
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