【映画「燃えよ剣」】無邪気で、強くて、そして儚い沖田総司がにこにこと笑う様子をずっと眺めていたい【感想】

新選組の土方歳三の剣と共に生きた生涯を描いた、司馬遼太郎(敬称略)の小説「燃えよ剣」。この作品は、2021年10月に岡田准一さん主演で映画化されました。

映画の上映終了から約半年。

上映期間中はタイトルに書いたようなことを考えながら何度も映画館へ足を運んでいたのですが、ついにその願いが叶う日が来ました。

Blu-ray&DVDの発売及びPrime Videoでの配信が始まったためです。

燃えよ剣

燃えよ剣

  • 岡田准一
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映画「燃えよ剣」の制作が発表された2019年2月、原作を手に取り読み始め、まず衝撃を受けたのは沖田総司が初めて登場するこの場面でした。

沖田は、可愛い唇でにこにこ笑っている。

司馬遼太郎「燃えよ剣」上巻 わいわい天王 より

元々読書は好きですが、好きなジャンルに偏りがあるため、恥ずかしながら初めての司馬遼太郎作品でした。思わず奥付を見て、1970年代の作品であることを何度も確認してしまうほどに沖田総司の描写が可愛らしすぎた。

原作は上下巻2冊にわたり、剣に生きた土方歳三の生涯をなぞるように物語が進みます。その要所要所で土方の隣に現れ、にこにことしながら柔らかく丁寧な言葉づかいで、でもどこか飄々とした捉えどころのない様子で語りかけてくるのが沖田です。

司馬遼太郎が描いた、無邪気で、強くて、そして儚い沖田総司。

そのイメージがそっくりそのまま小説からスクリーンへ飛び出してきたのが、山田涼介さん演じる映画「燃えよ剣」の沖田総司です。

無邪気な沖田総司

映画の沖田も原作と同じく、誰に対してもにこにことしている印象が強いのですが、やはり土方と接する時に一番無邪気さが溢れているように思います。この2人の関係性は、多摩にいた頃から一貫して変わらず、なぜか年下の沖田が年上の土方をからかう形です。

土方の句帳

沖田は、くすくす笑った。この若者は知っている。歳三の恥部なのだ、ひそかに俳句をつくるということは。

「総司、かえせ」

「いやですよ。(後略)」

司馬遼太郎「燃えよ剣」上巻 再会 より

原作の沖田は隙を見て句帳を拝借し、なかなか返そうとしませんが、映画の沖田も豊玉宗匠作の「恋の道」の句が書かれた半紙を拝借し部屋を走り回ります。

土方の局中法度

例によって沖田総司が、からかいにきた。

「また俳句ですか」

のぞきこんだ。

「ほう、局中法度書」

司馬遼太郎「燃えよ剣」上巻 局中法度書 より

原作の沖田は夜に土方の部屋までからかいに来ていますが、映画の沖田も稽古の手を止めてまで土方をからかいに来ます。ちなみに、切腹まみれの局中法度に「酷だなぁ」と思わず本音が出てしまうのはどちらも一緒です。

土方の表情

「申し遅れました。私がその使者です。近藤先生から、土方さんを呼ぶように、と云いつかっています」

「ばか、なぜそれを早くいわない」

「しかし」

沖田は、くすくす笑った。

「なにがおかしい」

「楽しめますからね、土方さんのお顔の変わり方が」

司馬遼太郎「燃えよ剣」上巻 甲子太郎、京へ より

原作は土方の自室が舞台ですが、映画の沖田は土方とお雪が二人で居る家へ当然のように上がり込み、当然のようにお雪とにこにこと会話し、一緒になって土方をからかいます。二人の仲を取り持つような言動もあり、無邪気そうに見えてなかなかの策士です。

強い沖田総司

戦闘力だけではなく、精神力も強い沖田。ここでは主に残酷なほどの精神力が見られるシーンをまとめます。

芹沢鴨の暗殺

「しかし、芹沢先生は可哀そうだな」と、この底抜けに明るい若者は、どこか矛盾していた。その可哀そうだなの口の下から、こうもいうのである。「土方先生、あなたはずるいから、一ノ太刀はご自分がつけるつもりなのでしょう。そうはいきませんよ。私はこれほど検分しているのだから、私に譲っていただきます」

司馬遼太郎「新選組血風録」芹沢鴨の暗殺 より

原作(新選組血風録)の沖田も「可哀そうだな」と連呼しながら一の太刀(最初に切りつけること)は自分に譲れと大胆なことを言いますが、映画はこのセリフの前に、芹沢の部屋で子供たちや芹沢と楽しそうに遊びながら部屋を検分する回想シーンが入るので、より残酷さが増します。

山南敬助の介錯

「――討手?」

自分が。という表情を、沖田総司はした。

司馬遼太郎「燃えよ剣」上巻 憎まれ歳三 より

ここが一番、原作と映画の表現が大きく異なると感じました。土方から討手に指名され、すぐに任務へ向かう点は同じですが、原作の沖田はすぐに山南への気持ちを断ち切り笑顔を浮かべる一方、映画の沖田は険しく悲しい表情を浮かべます。ただ、解釈違いというよりかは、映画はすぐに切腹シーンへと移るため、原作のように山南と最後の時間を過ごす場面がなく、一瞬でやりきれない思いを表現しないといけないためかと思います。いくつもの気持ちが入り混じった、とても引き込まれる表情でした。

儚い沖田総司

総司は、死が近づくにつれて、笑顔がすきとおるようになってきたといわれる。

司馬遼太郎「新選組血風録」菊一文字 より

原作でも描写されていますが、病状が進んでからの映画の沖田は、今すぐ消えて無くなってしまいそうな雰囲気を醸し出しています。にこにことした笑い方が段々と弱々しくなっていく様子を見るのがつらい

病床のシーン①屯所

「総司、早く元気になれよ」

「なりますとも」

沖田は、微笑をした。その微笑は、……いつもそうなのだが、歳三がこわくなるほど澄んでいる。

司馬遼太郎「燃えよ剣」下巻 大暗転 より

身体を起こすのもやっとの状態です。映画の沖田は段々と笑顔が儚くなってくることに加え、声も弱々しくなっていきます。菊一文字を見つめる表情も狂気を帯びていて好きです。

病床のシーン②大阪城

「医者が臥てろ、というからいいつけどおりにしているんだけど、私はほんとうは元気なんですよ」

「そうかね」

歳三は、この若者の笑顔が、透きとおるような美しさになってきているのを、おそろしいものでも見るようにして見た。

司馬遼太郎「燃えよ剣」下巻 江戸へ より

原作も映画もほぼ同じセリフです。文字で見ると可愛らしいのですが、映画だと今にも声が途切れそうで冗談がきつい。映画はこのシーンが土方と沖田の最後の会話になりますが、追い込まれた土方が沖田の前では「負けてきた」と弱みを見せている所がいい。

病床のシーン③植木屋の離れ

死は、突如きたらしい。縁側に這い出ていた。

そのまま、突っぷせていた。菊一文字の佩刀を抱いていた。

司馬遼太郎「燃えよ剣」下巻 沖田総司 より

原作も映画も、黒猫を切ろうとする場面が沖田の最期となります。映画でも、菊一文字を抱きしめながら近藤さんの訃報を眺めていたり、元気だった頃と同じ姿勢で刀を構える姿がラストシーンであったりと、意に反して病死ではあったものの、土方だけではなく沖田も剣と共に生きた生涯であったことがしっかりと描かれているところがとても好きです。

なお、このシーンの最初のカットで、完全に死相が出ている沖田がにこにこしながら小窓を覗く場面があるのですが、最期のこの極限状態でのにこにこがとても凄まじいです。

あまりに好きすぎてロケ地へも行きました。

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映画「燃えよ剣」私は大好きです。今回の円盤化やサブスク配信をきっかけに、より沢山の人にこの映画の良さを知って貰えたらいいなと思います。その際には、岡田准一さん演じる土方歳三の芯の通った佇まいに加えて、にこにこと笑う沖田総司にも是非注目していただきたいです。

 

↓ 併せて読みたい「新選組血風録」「王城の護衛者」

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↓ 山田涼介さん映画出演作まとめ

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