「金田一少年の事件簿」を描く作者チーム(天樹征丸氏・さとうふみや氏)による、もう一つの本格ミステリ漫画「探偵学園Q」についての話をします。
探偵養成学校D.D.Sの「Qクラス」のメンバーである5人の少年少女たちが、それぞれの長所を生かし、短所を補い切磋琢磨しながら実際の殺人事件を解決しつつ、悪の組織「冥王星」へと立ち向かっていく物話です。
さて、2005年に完結したこの作品、2007年に日本テレビ系列にてテレビドラマ化されています。
原作とテレビドラマを比較した際、個人的には、「テレビドラマのキュウが『いい子』すぎる」と感じました。
もちろん原作のキュウも主人公らしく前向きで素直な少年です。しかし、テレビドラマのキュウはややお人好しで、優等生すぎるように思えます。
なぜそのような差が生まれるのか、理由について考えたことをまとめます。
※ 物語のネタバレを含みます。また、作品のあらすじを知っていることを前提としているため、用語等についての細かい説明は省略しています。
4つのターニングポイント
この作品はQクラスのメンバー5人、特にキュウとリュウという2人の少年の成長を軸として描かれているため、物語の中には成長のきっかけとなるいくつかのターニングポイントがあります。
- リュウがキュウを庇って刺される
- キュウが冥王星の存在を知る
- リュウが冥王星の後継者であることをキュウが知る
- キュウが「探偵のおじさん」の正体とその最期を知る
キュウとリュウは共に探偵を目指す友でありライバルでしたが、物語が進むにつれ、親の代からの因縁があることが少しずつ判明する、という流れです。
「命の恩人」であること
4つのターニングポイントのうち、1つだけ異質なようで実は最も重要だと思われるものが、ターニングポイント1の「リュウがキュウを庇って刺される」です。
得体の知れないところがあり、他のメンバーと少し距離のあったリュウが、包丁で襲われたキュウを身を挺して庇い、代わりに刺されてしまう場面があります。
キュウの命の恩人となったリュウ。この2人に強固な信頼関係が芽生えたことに加え、他の3人のメンバーにとってもリュウを信頼するきっかけとなる出来事です。
このターニングポイント1が物語の中でどの位置に来るかによって、作品全体の雰囲気にも変化があるように思います。
原作(マンガ)での描かれ方
物語の流れ:1→2→3→4
- 刺される 74話(幻奏館殺人事件)
- 冥王星 75話(幻奏館殺人事件)
- 後継者 104話(雪月花殺人事件)
- おじさん 113話(教えを継いで)
原作では、かなり早い段階でリュウが刺されます。冥王星の存在をキュウが知るタイミングとほぼ同時です。
このことにより、早期のうちにキュウとリュウに信頼関係が生まれます。(何ならリュウがキュウの自宅に居候をしていた期間もある)
そのため、後々リュウがQクラスの宿敵・冥王星の後継者であることが判明した際にも、「リュウを信じる」というセリフに説得力があります。積み重ねた時間の長さもありますが、早い話が身を挺して自分を守ってくれた、命の恩人だからです。
「リュウのおじいさんがどこの誰だって関係ない!!オレたちはともに団先生の後継者を目指す『仲間』じゃないか!」
漫画「探偵学園Q」第106話より
テレビドラマでの描かれ方
物語の流れ:2→3→1→4
- 刺される 8話
- 冥王星 6話
- 後継者 6話
- おじさん 9話
一方、テレビドラマはどうか。こちらは、キュウが冥王星の存在を知るタイミングと、その後継者がリュウであることを知るタイミングがほぼ同時です。
テレビドラマのキュウも、原作と同じく「リュウを信じる」という姿勢をとりますが、その根拠は「仲間だから」という理由だけです。
それに加え、テレビドラマはリュウ視点の内面描写が少ないためか、かなりそっけない印象があり、原作よりも得体の知れなさが増しています。このリュウならば、いつみんなを裏切ってもおかしくない。
そのため、キュウは何故そんなに簡単にリュウを信用できたのか?という点の説得力が弱く感じるのかもしれません。このことが「テレビドラマ版のキュウがいい子すぎる」ように見える理由だと思います。
「仲間を信じる」こと
「探偵学園Q」という作品全体のテーマは「仲間を信じる」こと。このことは団先生とキングハデスの確執の内容から考えても間違いないと思われます。
このテーマを短時間で前面に押し出すためか、テレビドラマのキュウは「仲間だから」という言葉を多用している印象があります。「仲間だから」という言葉を軸として決してぶれないキュウの性格があってこそ、キュウがリュウを絶対的に信頼していることが鍵となる10・11話(最終回)が成立するのですが、それにしてもお人好しがすぎる。
「リュウが刺されたことにより、バラバラだったQクラスのメンバーがひとつにまとまる」という山場をなるべく後ろの回に持っていきたい制作側の意図もあるでしょうし、結果的に波乱の多いドラマチックな展開になっているので決して悪くはないのですが、その代償としてキュウが「いい子」すぎる問題が発生するのだろうなと思います。
ちなみに、テレビドラマ6話でリュウがキュウに向かって声を荒げるあの台詞は、原作には一切登場しません。この記事の締めとして最適なため引用しておきます。
「信じるなんて軽々しく言うな!」
テレビドラマ「探偵学園Q」6話より
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原作は全22巻。現在、Amazonの電子書籍読み放題サービス「Kindle Unlimited」にて合本版(全6巻)を全て読むことができます。3か月99円などの月額料金が安いタイミングで入会するとかなりお得です。
テレビドラマについては、現時点でHuluなどのサブスクでは配信されていないため、DVDレンタルなどを利用して視聴する方法になるかと思います。
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余談ですが、テレビドラマ版8話ラストの、リュウ様がQクラスのメンバーと仲直りをするシーンが大好きです。あの笑顔に人生を狂わされたと言っても過言ではない。