ひとりクローズドサークル

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【映画「サイレントラブ」】胸キュン要素もセリフもない【感想】

映画「サイレントラブ」を見た個人の感想です。

※結末については明示しませんが、作品の内容に触れているためご注意ください。

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ポスターに騙されるな

胸キュン要素はない

まず、本作は美男美女の胸キュンラブストーリーではないので、激しい心のときめきなどを求めてはいけない。ピアノの音色と共に、2人の行く末をただひたすら見守る、とても静かで穏やかな映画です。途中までは。

とにかく絵面が美しいし、音楽も美しい。見終わった後、暫くピアノの音が頭から離れなくなる。恋愛ものがあまり得意でない人にとっては程良い「摂取量」かもしれない。

2人を阻む「障害」とは

映画の情報が解禁された時から、「声を出さない(出せない)」男性と「目が見えない」女性がどのようにコミュニケーションをとり、仲を深めていくのか、ずっと気になっていた。

人間関係の中で恐らく一番重要な「目を合わせて会話すること」が、この2人にはできない。しかし、それでも心を通わせる方法は存在する。

むしろ、作中ではそれとは別の「障害」が2人を阻んでいる。「親ガチャ」という言葉があるが、人は皆、生まれる家を選ぶことができない。そんなことを考えながら蒼の姿を見ていると、心が痛む。

声を発さない主人公・蒼

本当にセリフがない

山田涼介さんが演じる主人公の蒼には台詞がない。(声を聞くことができるシーンは2箇所ある)

台詞がないうえに、死んだ魚のような目をしている。また、佇まいや動作の一つ一つにも蒼の生き方が滲み出ており、これほどまでに用務員さんとして背景に溶け込めるものなのか、という驚きがあった。

美夏を窓越しに見つめる蒼

旧講堂の中でピアノを弾く美夏を、窓越しにじっと見つめる蒼。中盤からは蒼のふりをしてピアノを弾く北村もその視界に入ることになるが、美夏を見る目つきと北村を見る目つきが全く異なるのが面白い。

また、美夏と北村がとても楽しそうに連弾する姿を見る蒼の表情は何度見てもいたたまれない気持ちになる。個人的に一番好きなシーンです。

蒼は何を考えているのか?

ただ、どうしても声を発さない蒼について映画の中でで得られる情報量には限りがある。そのあたりはノベライズを読むと解決する。

蒼がどのようなことを考えながら交通誘導をしたり、美夏の掌に文字を書いたりしたのか。蒼の生い立ちや圭介との繋がりの深さについても言及されているため、解像度がより高まる。

ちなみに、映画に登場するピアノ曲の中では、北村が弾くショパンの「英雄ポロネーズ」が個人的に好みだったのですが、ノベライズの該当箇所を読んで、魅力を感じた理由が理解できた。あの北村がこんな気持ちで弾いていたとは。

思わず拍手してしまった蒼の気持ちがよく分かる。