ひとりクローズドサークル

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【2023夏】新潮文庫の100冊・ミステリ系5冊の感想をまとめる【キュンタが可愛い】

夏の書店の風物詩と言えば、大手出版社3社の特設ブースと小さなあの冊子。今年も集英社文庫、角川文庫、新潮文庫が夏のフェアを行っています。

その中で、キャラクターのキュンタが可愛い新潮文庫の100冊よりミステリ系の小説5つを以下にまとめます。

www.100satsu.com

『シャーロック・ホームズの冒険』コナン・ドイル

君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのとでは大ちがいなんだぜ。

コナン・ドイル(延原謙 訳)『シャーロックホームズの冒険』ボヘミアの醜聞より

ご存知シャーロック・ホームズ。新潮文庫から出版されている短編集のうち「冒険」がフェアの対象。短編10編が収録されています。個々の事件の面白さに加え、ホームズが事務所を訪れた依頼人の見た目を観察し、その人の素性や行動を推理して言い当てるお決まりの流れが好き。

★次の1冊

新潮文庫のホームズシリーズは全10作。電子書籍だと合本もあります。

 

『江戸川乱歩傑作選』江戸川乱歩

私は数か月のあいだ、全く人間界から姿を隠して、ほんとうに悪魔のような生活を続けてまいりました。

江戸川乱歩『江戸川乱歩傑作選』人間椅子より

こちらもフェアの常連、江戸川乱歩傑作選。この短編集1冊に9編が収録されており、タイトルだけは誰でも聞いたことがあるような、代表的な作品が網羅されているのが嬉しい。上の引用文は「人間椅子」から。ゾクゾクする告白文からオチへの流れが綺麗ですが、結末がはっきりと明示されていないところが怖い。

また、倒叙ミステリ(犯人の視点で描かれている小説)が個人的にあまり好きではないのですが、何故か読み心地良く感じる「心理試験」や「屋根裏の散歩者」も収録されています。

★次の1冊

他社(RP文庫)ですが、電子書籍だと99円で110作品読める作品集があります。

 

『向日葵の咲かない夏』道尾秀介

この世界は、どこかおかしい。

『向日葵の咲かない夏』道尾秀介

この一言に尽きる作品。

有名作であるため、肝となる部分のネタバレをうっかり知ってしまった上で読みました。知らないまま読みたかった。殺人事件の真相と、どこかおかしいこの世界の謎が絡まり合い、物語を複雑にしているため、普通ならば気が付きそうなことを見落としてしまうのかもしれない。

夏が舞台の小説ですが、決して爽やかではない。じっとりとした暑さと生臭さが何処からか漂ってくるような読了感です。

★次の1冊

他社(文春文庫)ですが、こちらをおすすめしたい。各話のラストが必ず図や写真1枚のページとなっており、目で見ることで「そういうことか…」と視覚的に種明かしされる、凝ったつくりになっています。

 

『儚い羊たちの祝宴』米澤穂信

「それは、お言いつけですか?」

米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』玉野五十鈴の誉れ より

良家の令嬢が集う大学サークル「バベルの会」のメンバーやその使用人達の目線で描かれた短編集。5編収録のうち「玉野五十鈴の誉れ」は、小栗家のお嬢様・純香と愚直な使用人・玉野五十鈴の物語。玉野五十鈴の誉れとは一体何なのか。読み終えたあと、ネットで考察を探してみると二度楽しめるかもしれません。

★次の1冊

同じく新潮文庫の短編集。毛色の異なる短編6編が収録されています。この時期におすすめしたい作品は、峠にある寂れたドライブインが舞台の「関守」。車が何度も崖下へ転落する謎を追い求め、おばあさんがたった1人で経営するドライブインにやってきた主人公。この峠は心霊スポットなのか、それとも…

 

『火のないところに煙は』芦沢央

この本は、本当に発表するべきなのだろうか。

芦沢央『火のないところに煙は』最終話 禁忌 より

作者が見聞きした怪談話を短編小説として文芸誌に掲載し、その連載を一冊の本にまとめた……という形の物語

収録されている短編は実際に文芸誌「小説新潮」に一作ずつ掲載され、さらに本編に登場する作者のツイートも現実のTwitterに存在するとのこと(千街氏の解説参照)。手の込んだ仕掛けにより、小説内の出来事と現実との境界線が曖昧になっていく。寒気がした。昼間に読んで良かった。

連載された1つ1つの話はホラーだが、最終話「禁忌」で論理的説明がつけられることによってミステリの形になる連作短編集。

★次の1冊

文庫ではありませんが、こちらもおすすめ。将棋とミステリの掛け合わせが斬新です。短編5編のうち、冒頭の「弱い者」は将棋のプロが指導対局のため被災地の避難所を訪れる物語。希望のあるラストではありますが、ずっと心にしこりが残るような読了感です。

神の悪手

神の悪手

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【おまけ】キュンタが可愛い

新潮文庫のキャラクターであるキュンタ

キュンタは、ある日おじいさんの経営する小さな本屋さんにやってきた小さなロボット。本を読みつつ、分からないことはおじいさんに教わりながら、人間のことを少しずつ学んでいきます。

www.qunta.jp

QUNTA PARK」では、今までのフェアの度に公開されてきたキュンタの物語を2015年以降の分すべて読むことができる。今年はイルカと海に潜って冒険をする話。感受性が豊かで、毎年最後は泣いてしまうところもかわいい。2019年「キュンタの夏休み」paet6が個人的に一番好きです。

毎年イラストが追加されるフリーイラストページにも注目。お言葉に甘えて冊子の表紙イラストをお借りします。