お疲れさまです。
夜になると何故か気持ちが落ち込んで、つい余計なことを考え不安な気持ちが収まらなくなる。そんなあなたにそっと差し出したい1冊がこちらです。
※2023年1月現在、Kindle Unlimitedの対象書籍です。
とある町の片隅にひっそりと佇む一軒の甘味処。熊と鮭が営むこのお店は夜中しか営業していません。提供するのは温かい飲みものと、甘いもの一品だけ。今夜も、疲れて泣きたい人々がこの店に迷い込みます。
中山有香里『泣きたい夜の甘味処』
物語は、泣きたい人々が熊と鮭が営む甘味処を偶然見つけ、出された甘味を味わいながら自分の悩みと向き合い、肩の荷を下ろすという流れで進行します。
熊と鮭
甘味処を営むのは、寡黙で強面な熊とよく喋るにこやかな鮭。
よく喋る鮭
客との会話の殆どを行う、よく喋る鮭。いつもニコニコとした表情で話す姿が愛おしい。そのうえ、客の思いを上手く汲み取り、その場面に適した温かい言葉をかけてくれます。
寡黙な熊
かなりの強面。しかし、店先に佇む人を招き入れたり、近所のおじいさんと仲が良かったりと、中身はとても心優しいことが伺えます。接客中は一歩引いて客の話を聞いており、台詞の殆ど(全部かもしれない)が吹き出し外の「書き文字」で表現されているところにも味がある。
泣きたい人々
作中には11人の泣きたい人々が登場しますが、その悩みは大きく2つに分かれています。以下、印象的だったエピソードをいくつか紹介します。
仕事に疲れた人々
会社を辞めたOLさんといちご大福
一生懸命勉強して誰かの役に立ちたくて続けてきたけど
急に頑張れなくなった――…
中山有香里『泣きたい夜の甘味処』
今日が退職日だった女性の話。ある日突然、前に進めなくなった。人生の節目を迎え、不安に押しつぶされそうな彼女を、桜の蘊蓄を語りながらもてなす鮭の姿に心が温まります。
落ち込んだ新人さんが干し柿を拾う話
私は――
ほんの少しも人から認めて貰えない自分が情けない…
中山有香里『泣きたい夜の甘味処』
「要注意な新人」というレッテルを貼られ、苦しむ新人看護師の話。渋柿と自分を重ね合わせ、つい泣いてしまった彼女を心配する鮭の優しさが沁みます。
大切な相手との関係に悩む人々
私だけのパフェ
――久しぶりに自分のために何かを選んだ気がする…
中山有香里『泣きたい夜の甘味処』
良いお母さんであろうとすることに疲れてしまった母親の話。優しい言葉と共に鮭が作ってくれた『あなたの好きなものだけでパフェ』が煌びやかで心惹かれる。いつか何処かで食べてみたい。
がっちゃんのココアクッキー
もうがっちゃんはいないけど
一人のときに戻っただけだ
中山有香里『泣きたい夜の甘味処』
入院を控え、愛猫を手放した一人暮らしのおじいさんの話。おじいさんは愛猫「がっちゃん」そっくりのクッキーをどう扱ったのか。そして最後の言葉にがっちゃんへの愛が溢れており、目頭が熱くなります。
Another Story
個々のエピソードに更なる深みを加えているのがこの「Another Story」。主にエピソードに登場した別の誰かの視点から、「泣きたい人々」への思いが語られます。
視点を変えると、こんなにも見える世界が違うということに気付かされる。単なるおまけページに留まらず、メインエピソード+レシピ+Another Storyで1つの作品が完成しているような構成となっています。
甘いもの一品
各話のラストには、テーマとなった甘味のレシピが掲載されています。
繊細なイラスト
線が細かく、繊細に書き込まれているイラストが食欲をそそります。全編カラーのため、リアルな色使いも相まってとても綺麗。所々に小さな熊や鮭が書き込まれているところも可愛い。
詳細なレシピ
店のメニューとして提供される甘味は、すべてレシピが書かれており、真似をして実際に作ることもできます。個人的には干し柿のパウンドケーキが食べたい。
【おまけ】次の一冊
続刊である「疲れた人へ夜食を届ける出前店」は、今回店主として登場した熊と鮭に加え、個性豊かなキャラクターが配達員として登場します。登場する食べ物のジャンルも多岐にわたり、繊細で食欲をそそるイラストも添えられているため、夜中に読むとお腹が空いてしまう1冊。
作中後半で、寡黙ながらいつも淡々と仕事をこなす熊にある転機が訪れます。一体何が起こったのか。そちらにも是非注目してみてください。