ひとりクローズドサークル

好きなものに対する思いをひっそりと呟くブログ

小学1年生の自分に予算3万円でミステリ児童書をプレゼントするとしたら

「タイムスリップできるとしたら何がしたいか?」という定番の質問がある。

もし段ボール箱の持ち込みが可能なのだとしたら、四半世紀ほど過去に戻り、小学校へ入学する自分に、児童向けのミステリ本を山のようにプレゼントしたい。

なぜ児童書をプレゼントしたいか

現在ご活躍されている推理小説家の先生方や、コアなミステリファンの方々の大部分が、小学生の時点でホームズや少年探偵団の冒険譚に出会い、それらを夢中になって読んだ過去がある。

しかし自分自身は小学生時代に名探偵コナンを通じてその面白さに気がついたものの、小説を手に取るまでに時間がかかった。早く読み始めたことで何かが劇的に変わるわけではないが、それでも漠然とした憧れがある。子供の頃から推理小説を貪るように読んだ、という経歴に。

今回、本を選ぶルール

現在出版されている本から選ぶ

現在の自分がタイムスリップして本をプレゼントするという主旨であるため、当時ではなく、現時点で購入可能な本とする。なお、一応小学校入学祝いという名目のため、新品で購入する。

また、「購入可能」の判断基準は、現時点のAmazonにて新品の在庫が存在するかによる。

予算は税込3万円

他の誰でもない自分自身へのプレゼントであるため、予算は大奮発して3万円とする。なお、四半世紀前は消費税率が3%から5%に切り替わった頃であるが、買い物は現時点で行うため、今回の税率は10%とする。

活字の本とする

小説を手に取るきっかけを作るため、今回は活字メインの本を選ぶ。また、「小学校入学時点で読める本」ではなく、小学生のうちの任意のタイミングで読むことができれば良いものとする。

「活字メイン」かどうかは文字の分量と絵の分量のどちらが多いかで判断する。なお、ミルキー杉山の「あなたも名探偵」シリーズを絵本とするか小説とするかで小一時間悩んだが、絵の分量の方が多いと判断しこちらは絵本扱いとする。

※以下に挙げる作品は「幅広くすべての子供に勧めたい」という観点ではなく、あくまで「小学1年生の自分にプレゼントしたい」本として選んでいる。そのため、個人の好みの偏りがかなり現れていることをご理解ください。

プレゼントに選んだ児童向けミステリ

学研プラス「10歳までに読みたい」シリーズ

幅広く名作を取り扱う当シリーズから、ホームズ、ルパン、少年探偵団を選択。ちなみに、ここで紹介している本はすべて芦辺拓氏の編訳。

「10歳までに読みたい世界名作 名探偵シャーロック・ホームズ」

(税込968円)

「まだらのひも」「六つのナポレオン」「ノーウッドの怪事件」収録。巻頭フルカラーの「物語ナビ」でホームズとワトソンの関係性や各話のあらすじ、当時のロンドンの様子が描かれており、物語に入り込みやすい。小説部分も話がとてもコンパクトにまとまっており、飽きずにテンポよく読むことが出来る。

ちなみに2022年12月現在、kindle unlimitedの読み放題対象となっているため、試し読みどころか1冊まるごと読むことができます。

「10歳までに読みたい世界名作 怪盗アルセーヌ・ルパン」

(税込968円)

同じ『世界名作』から、こちらはルパン。「怪盗ルパン対悪魔男爵」「怪盗ルパンゆうゆう脱獄」の2話収録。もちろんこちらも「物語ナビ」付き。ルパンがとてもイケメンに描かれている。

「10歳までに読みたい日本名作 少年探偵団」

(税込1,034円)

江戸川乱歩も押さえておきたい。『日本名作』から少年探偵団を選択。絵のタッチが柔らかく、少し不気味な世界観の乱歩作品でも安心。明智小五郎はもちろん、小林少年や団員たちのイラストがかわいい。

先程から絵のことばかり触れているが、小学生時代の自分はずっとコナンのアニメの死体の描写が苦手で直視できない子供だったため、絵のタッチは重要確認事項だと思っている。

「10歳までに読みたい名作ミステリー 名探偵シャーロック・ホームズ」

全5冊(税込5,170円)

先程選んだホームズは『世界名作』の中の1冊だったが、同じ形式でホームズのみの単独シリーズがあるためこちらも選択。全5冊。

「10歳までに読みたい名作ミステリー 怪盗アルセーヌ・ルパン」

全5冊(税込5,170円)

同じくルパンだけの単独シリーズもある。ホームズと同様に全5冊。

ちなみに、恐らく先程挙げた『世界名作』が好評だったためこの単独シリーズが発売されたのだと思われるが、1冊+5冊の関係性が少し分かりづらい。知らずに購入しようとすると戸惑うかもしれない。

角川つばさ文庫「見習い探偵ジュナの冒険」シリーズ

計1冊(税込792円)

エラリー・クイーンにも触れておきたいが、児童書が殆ど存在しない。こちらは元々子ども向けに別名義で書かれた作品。本編にも登場し、クイーン家の家事を担当する少年ジュナを主人公としたシリーズ。

実は角川つばさ文庫からシリーズとしてもう1冊「幽霊屋敷と消えたオウム」が存在するが、新品では手に入らないため除外した。

講談社青い鳥文庫「名探偵夢水清志郎の事件簿」シリーズ

全14冊(税込12,947円)

大食いで記憶力がなく生活力が皆無の「教授」こと夢水清志郎が、数々の事件を皆が幸せになるように解決するシリーズ。

『普段は変わり者だが、推理を始めると切れ者になる探偵』『謎解きシーンでは皆を集めて「さて」と言う』など推理小説の醍醐味のようなものを教えて貰った、個人的に思い入れのある作品。

ちなみにKindle版だと安価で読めるため、久しぶりに読みたくなった大人の皆様には電子書籍を勧めたい。

登場人物の1人であるレーチが好きすぎて、こんな記事を書いてしまった。

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講談社青い鳥文庫「金田一くんの冒険」シリーズ

全2冊(税込1,364円)

本編では17歳(高校2年生)の金田一一(はじめ)が、青い鳥文庫では12歳(小学6年生)。本編と同じく、自らが巻き込まれる事件を解決するシリーズ。

幼馴染の七瀬美雪を始め、千家貴司や村上草太など、本編ではお馴染みの友人たちが登場するのも嬉しい。個人的には、物語の語り手が12歳の美雪である点が魅力だと思っている。

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講談社「ミステリーランド」シリーズ

数々の推理作家が子供向けに描いた作品を集めた講談社の「ミステリーランド」。少し難易度が上がるため、小学校高学年くらいのタイミングで読みたい。

今後の本選びのことも踏まえ、是非名前を覚えてほしい作者の作品を選択。

綾辻行人「びっくり館の殺人」

(税込748円)

あの「館シリーズ」の中の1冊で、唯一子供向けに書かれた作品。○○トリックの面白さを味わえるという点では良いのだが、少々トラウマになりそうな内容ではある。『中村青司』や『鹿谷門実』という名前を記憶に残し、後々「十角館の殺人」に出会ったときにびっくりさせたい。

有栖川有栖「虹果て村の秘密」

(税込704円)

少年少女が訪れた辺鄙な村で発生した事件を解決する、古典的な本格ミステリを子供向けに描いた作品。小説家志望の主人公が憧れている推理小説家(ヒロインの母)のアドバイスがいくつも登場するが、どれも沁みる。

「自分が好きなように書いたものを、見ず知らずの人が好きになってくれる。それは奇跡みたいなことだけど、でも、不可能じゃない」

有栖川有栖『虹果て村の秘密』

加えて、有栖川先生によるあとがきも好き。推理小説を書くことになった経緯や奥様とのエピソードがとても素敵。

ちなみに、同シリーズの麻耶雄嵩「神様ゲーム」を入れるかどうか迷ったが、あの結末は絶対にトラウマになると思ったのでやめた。

以上、合計29,865円

今気づいたが、タイムスリップに重量制限があったらどうしよう

おまけ:「北村薫と有栖川有栖の名作ミステリーきっかけ大図鑑」

小説ではないため選べなかったものの、今後読む本を自分で選ぶという点ではガイド系の本も手元に欲しい。当時は出版されていなかったが、ある意味、小学校の図書室で1番出会いたかった本かもしれない。

【夢水清志郎】探偵助手・レーチの文学的苦悩を振り返る【はやみねかおる】

幼い頃からの読書好きなら避けては通れない「青い鳥文庫」。このレーベルの人気シリーズといえば、はやみねかおる氏の「名探偵夢水清志郎事件ノート」です。

ミステリ好きの登竜門のようなこの作品。その名のとおり名探偵の役割を担うのは「教授」こと夢水清志郎です。しかし、今回焦点を当てるのは、その夢水清志郎の探偵助手を名乗る中学生・レーチこと中井麗一です。

青い鳥文庫「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズとは

三つ子の中学生・岩崎亜衣、真衣、美衣の家の隣の洋館へ引っ越してきた謎の男・夢水清志郎(通称「教授」)。生活力皆無の彼は自分のことを「名探偵」と称し、亜衣たちの身の回りで起こる事件を皆が幸せになるように解決していきます。

教授が関わる事件はどれも警察沙汰にはなるものの、殺人が起こらないため、青い鳥文庫の対象年齢である良い子の皆さんにも堂々とおすすめできます。

「レーチ」とは

岩崎亜衣のクラスメイトで同じ文芸部に所属する中井麗一。物語の語り手である亜衣によると「長髪の野蛮人」で「知性が零(ゼロ)」。レーチという呼び名もそこから来ています。文芸部では自分の存在自体が詩であると言い張り、創作活動は一切行いません。

初登場となる「亡霊は夜歩く」にて、亜衣となかなかいい感じになる(ように見える)のですが、後続の巻では付かず離れずの絶妙な距離感。いわゆる友達以上恋人未満の関係です。

レーチは五十円玉を銀のくさりに通して、わたしの首にかけてくれる。レーチは背が低いから、のびあがるようにしないとかけられなかった。

『亡霊は夜歩く』はやみねかおる

小説家を目指す亜衣が、初めて自分のファンから対価として貰った五十円。この「五十円玉のネックレス」は、亜衣とレーチの関係性を表す重要なアイテムとして、最終巻まで随所に登場します。

レーチの文学的苦悩

亜衣の目線では残念な感じで語られがちなレーチ。しかし、シリーズの一部作品の中で、物語の幕間としてレーチが語り手となる章が登場することがあります。それが「レーチの文学的苦悩」

亜衣へ片想いする素直な気持ちが真っ直ぐに、切々と描かれているこの章を読むと、本編だけでは分からなかったレーチの良さがひしひしと伝わってきます。

電話機と格闘するレーチの後ろ姿。時代が変わり電話の概念が変わっても、陰ながら応援したくなる姿です。

レーチの文学的苦悩

「踊る夜光怪人」収録

実際に自分のことを思考の中で「おれ」と呼べるようになったとき、ぼくはきっと、一人前になったような気がするんだろう。

『踊る夜光怪人』はやみねかおる

亜衣を祭りに誘うため、自宅の黒電話と奮闘するレーチ。うじうじしている間に亜衣から逆に誘われ、祭りに行くことは出来たのだが……。

本編ではマイペースで我が道を行くタイプのように見えるレーチですが、実は自分に自信がなく、亜衣を祭りに誘う電話すらかけることができません。

亜衣は自分のことをどう思っているのだろう。自分の長髪を世間に理解されなくてもいい、ただ、亜衣にだけは理解してほしい。レーチの真っ直ぐな「好き」の気持ちが垣間見えます。

レーチの思いが(若干)報われる本編ラストにも注目。

レーチの文学的苦悩Ⅱ

「いつも心に好奇心!」収録

亜衣をデートにさそったとして、どこへいけばいいんだ?

『いつも心に好奇心!』 はやみねかおる・松原秀行

今回も黒電話と格闘するレーチ。亜衣をデートに誘うべく、デートコースの下見をしているうちに、偶然、亜衣と出会うことになり……。

空回りすぎて可哀想な結末。

ちなみにこの本は、他シリーズ(松原秀行「パスワード」シリーズ)との合同作品となっており、番外編のような位置付けです。現在は絶版な上に電子書籍化もされていないため注意。

レーチの文学的苦悩Ⅲ

「人形は笑わない」収録

夢をみているのは、わかってる……。

『人形は笑わない』 はやみねかおる

映画撮影のため、鞠音村へ合宿に来た文芸部の面々。監督を務めることになったレーチは夜、夢を見るのだが……。

微笑ましい夢だと思いきや、一転してホラーな展開に。この夢は一体何を暗示しているのだろうか。

本編の見どころとしては、レーチを慕う文芸部の1年生・一ノ瀬くんが、その理由を亜衣にだけこっそり教えてくれるシーンがあります。同性の後輩の目線から見るレーチの姿が新鮮。

レーチの文学的苦悩・修学旅行スペシャル

「あやかし修学旅行」収録

「おれは、おまえにも、みやげを買う。文句ないだろ。」

『あやかし修学旅行』はやみねかおる

楽しい修学旅行の夜、お土産を買いに行こうと亜衣に誘われたレーチ。土産物屋の店頭で、亜衣は、文芸部の後輩・千秋へのお土産を買うようレーチに勧めるのだが……。

「修学旅行のしおり」が本編に綴じ込まれている、お祭り気分で楽しい一冊。特にレーチの文学的苦悩では、修学旅行の夜の自由時間の空気を味わうことができ、青春のおすそ分けをして貰っているかのような気持ちになる。

自分に好意を抱いている千秋に、お土産を渡したくないレーチ。そこでレーチがとった行動がとても良い。亜衣に対する思いが溢れんばかりに伝わってくる、シリーズの中で1番好きなシーンです。

実は巻頭の目次の上に、この場面が挿絵として描かれています。村田四郎さんの描く、満足そうなレーチの横顔、必見です。

レーチの文学的苦悩Ⅳ

「笛吹き男とサクセス塾の秘密」収録

そう、ぼくはぼくなんだ。この根っこの部分さえ忘れなければ、なにがおきようとあわてることはない。

『笛吹き男とサクセス塾の秘密』はやみねかおる

進路のことで悩むレーチ。ふと思い出した昔のある言葉をきっかけとし、小学校時代の恩師を訪ねることになるのだが……。

将来「何になりたいか」が分からない…レーチと同じ悩みを抱えたことがある人も多いのではないでしょうか。

周りの皆のように夢や目標がない。自信を失い、立ち止まったレーチに先生がかけた「中井くんは、特撮変身ヒーローにでもなるつもりですか?」という一言がとても身に染みる。こんな言葉をかけてくれる先生と出会いたかった。

ちなみにこの回、レーチの姉・中井さなえも登場します。弟とは真逆の豪快な姉さんです。

レーチの文学的クリスマス

「ハワイ幽霊城の謎」収録

同行者が、多すぎる!

『ハワイ幽霊城の謎』はやみねかおる

亜衣をクリスマスのデートの誘おうと、毎度お馴染みの黒電話と格闘するレーチ。そしてやはり亜衣から逆にお誘いを受けることになるのだが、その内容は想像以上のもので……。

2人きりになりたいという、たったそれだけの願いが叶わない。そろそろレーチが不憫になってくる。

その思いが通じたのか、本編の中盤ではやっと2人きりになれたのですが、直後に大変な目に遭っています。ピンチの時に意外と頼りになるレーチの姿も見どころです。

レーチの文学的苦悩Final

「卒業~開かずの教室を開けるとき~」収録

※最終巻のネタバレを含みます

「……いままでありがとう。」

おれは、心の底からの感謝をこめて、黒電話に頭をさげた。

『卒業~開かずの教室を開けるとき~』はやみねかおる

卒業が迫る中、レーチは亜衣と同じ高校へ行くことを辞め、ある決断をする。その結果を亜衣に伝えるべく、レーチは黒電話と最後の対決に挑む。

自分の意思で、大きな決断をしたレーチ。この章の後半で心の中での一人称が「ぼく」から「おれ」に切り替わると同時に、黒電話の声が聞こえなくなります。『レーチの文学的苦悩』(初回)での伏線が綺麗に回収されている。

本編では、別れの挨拶としてレーチが亜衣にかけた言葉がとても良い。思いの強さとレーチらしさを感じる素敵なセリフです。

レーチの文学的苦悩・新たなる戦い

「名探偵と封じられた秘宝」収録

※最終巻のネタバレを含みます

がんばったよ、おれ!

『名探偵と封じられた秘宝』はやみねかおる

高校卒業後、新天地で懸命に生きるレーチ。日本の高校に通う亜衣の声を聞くため、異国の公衆電話を手に取るが……。

亜衣たち三姉妹と教授の物語は一旦幕を閉じ、新シリーズでは新たな主人公と教授が活躍しています。そのシリーズ3作目の当作には、スペシャルゲストとして高校生になった三姉妹が登場。そして、レーチの文学的苦悩も。

言葉の通じない土地で健気に頑張るレーチの姿に胸が熱くなりますが、根本的な部分が良くも悪くも変わっておらず、微笑ましい気持ちになります。お決まりの流れで不本意な結果に終わりますが、亜衣も変わらず元気そうで良かった。

いつかまたどこかで、教授のような立派な探偵になったレーチの姿が見られる日が来ることを、楽しみにしています。

 

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【2022年11月】kindle unlimited で読める本格ミステリをまとめる【おすすめ】

Amazonの本のサブスクでお馴染みのKindle unlimited。月額料金を支払うことで、対象書籍が読み放題となります。定価は月額980円ですが、かなりの頻度で「3か月99円」などの価格崩壊セールを実施しています。

対象書籍のラインナップは定期的に変わるのですが、先日久々に確認したところ、講談社文庫の本格ミステリが山のように並んでいたため、他社のおすすめも併せて紹介します。

なお、最新の情報を掲載するよう努めますが、突然サービス対象外となった場合についてはご容赦ください。

まずは今回の目玉・講談社文庫から10冊。

法月綸太郎の冒険 (法月綸太郎)

短編集。冒頭の「死刑囚パズル」が好きで好きでたまらない。①読者が論理的に解ける謎 ②個性的な探偵 ③関係者全員集めて謎解き ④意外な犯人、という本格ミステリの良さが全て詰まった宝石箱のような作品。

綸太郎と穂波の名コンビが微笑ましい図書館シリーズ4編も必見。

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法月綸太郎の新冒険 (法月綸太郎)

引き続き名探偵・法月綸太郎を主人公とした短編集。綸太郎と穂波の愉快な(?)信州旅行の様子と、道中で遭遇した心中事件の真相解明が楽しめる、一粒で二度美味しい鉄道ミステリ「背信の交点」がおすすめ。

 

法月綸太郎の功績 (法月綸太郎)

都市伝説に見立てられた大学生の殺人事件を、綸太郎が父・法月警視と自宅でディスカッションしながら論理的に解き明かす「都市伝説パズル」が大好きです。謎解きが鮮やかで美しい。

この短編集の中では「縊心伝心」も、同じく自宅での安楽椅子探偵スタイルの作品です。父と子のやりとりが微笑ましい。

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密室殺人ゲーム王手飛車取り (歌野晶午)

インターネット上に集まった5人が、1人ずつ順番に現実社会で殺人事件を起こし、その真相をクイズとして他の4人に出題する『密室殺人ゲーム』をテーマとした連作短編集。癖のある個々の事件と個性的なメンバー5人が面白く、ページを捲る手が止まらなくなりますが、最後には「互いの顔が見えないこと」を逆手に取った想定外の結末が待っています。

 

密室殺人ゲーム2.0 (歌野晶午)

前作のネタバレとなるため説明が非常に難しいのですが、前回同様『密室殺人ゲーム』がテーマの連作短編集。個人的には犯人役のメンバーが鬼畜すぎる「相当な悪魔」が後味の悪さも含めて印象的です。

 

殺戮にいたる病 (我孫子武丸)

〇〇トリックの名作。綺麗に騙される。約30年前の作品であるため、主人公の描写に時代を感じる箇所もあるが、それがかえって違和感を見過ごしてしまう結果になるのかもしれない。色々な意味でグロテスクな描写が多く、人に勧めにくいことが最大の難点

 

ハサミ男 (殊能将之)

同じく〇〇トリックの名作。語り手である「ハサミ男」の自分語りと、周囲の人間が「ハサミ男」に向ける目線との間にある違和感に気が付くと、仕掛けを見破りやすいかもしれない。綺麗に騙されても、うすうす勘づいていたとしても、読了後にもう一度読み返したくなる作品。

 

解体諸因 (西澤保彦)

その名の通り『(人体の)解体の理由』をテーマとした短編集。解体されるのは死体だけではなく、ぬいぐるみや宣伝ポスターなどもあり、バリエーション豊富で面白い。時系列通りに並んでいないため少々分かりにくいが、探偵役である匠千暁(タック)が全編通して登場する。タックや「解体守護」に登場するタカチはなかなか奥が深いキャラクターなので、気になった方はシリーズの他作品もおすすめです。

 

すべてがFになる (森博嗣)

犀川創平を探偵役とするS&Mシリーズの第1作目。森博嗣ワールドの入り口とも言える1冊。密室での人間消失がメインの謎だが、初読時の衝撃が未だに忘れられない。犯人もトリックもスケールが大きすぎて、良い意味で凡人には理解が追いつかない。このシリーズと同じ世界線で幾つかのシリーズが展開されているが、個人的には瀬在丸紅子が探偵役となるVシリーズが好き。なお、Vシリーズは必ずS&Mシリーズの後に読んでください。

 

その可能性はすでに考えた (井上真偽)

シリーズ1作目。奇跡の証明に挑む青髪の探偵・上苙丞(うえおろじょう)と、その債権者で物語の語り手である中国人美女フーリンの掛け合いが面白い。上苙は犯人を突き止めるためではなく、人間による犯行が不可能=奇跡であることを証明するために論理を展開していく、唯一無二の探偵。畳みかけるように推理がひっくり返されていく展開に圧倒される。

 

聖女の毒杯 (井上真偽)

探偵・上苙丞のシリーズ2作目。物語の前半はある名家の婚礼で発生した毒殺事件の顛末が語られ、後半は場面が一転、フーリンが窮地に立たされ、自分が毒殺事件一枚噛んでいたことを(愛犬が毒殺事件に巻き込まれた)組織のボスに知られることなく事件を解決せざるを得なくなります。代わる代わる役者が登場し、論理的に事件を解決しようとしますが、中でもフーリンと昔の仕事仲間であるリーシーが阿吽の呼吸を見せるシーンが好き。会場入りを妨害された上苙の参加は終盤となるが、探偵が登場するとやはり安心感がある。

 

ここからはおまけとして、他社から2冊。

体育館の殺人 (青崎有吾)

別記事にも書きましたが、あまりにも好きすぎるため再掲。

高校生探偵・裏染天馬シリーズの第1作目。学校で殺人事件が発生し、探偵役の裏染が推理を巡らせ、終盤に読者への挑戦が入り、ラストは関係者を一堂に集めて謎解きをするという本格ミステリの様式美、大好きです。体育館内のトイレに置かれた黒い傘1本から展開していくロジックも美しい。

1冊読んで好みに合えば、読み放題の対象外ではありますが、長編があと2作、短編集が1冊あるのでそちらもおすすめです。

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狩人の悪夢 (有栖川有栖)

犯罪社会学者・火村英生を探偵役とした「作家アリス」シリーズの1冊。事件発生時に現場となった集落が倒木により閉ざされたことから、犯人を論理的に導き出す過程が面白い。作者である有栖川先生の作品は全て読んでいますが、今回の犯人は珍しく嫌な感じがしたことも印象的。

また、最終盤にてシリーズお馴染みのある登場人物が人生の大きな転機を迎えます。シリーズをずっと追ってきた者としては、自分のことのように嬉しい。

 

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【Fire 7】マンガ専用端末として、kindle paperwhite愛用者が購入してみた【タブレット】

Amazonの電子書籍(Kindle)専用タブレット端末・Kindle Paperwhiteを肌身離さず持ち歩いている者です。

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上の記事でも注意点として触れましたが、Paperwhiteは「Amazonで購入した電子書籍(特に活字の本)を読むこと」に特化した端末です。そのため文字だけの本を読む場合はとても快適ですが、動画は見られませんし、漫画など細かなイラストの表示にもあまり向きません。そして何より、この端末では他社サービスを一切利用することができません。

そこで、Kindleにて漫画を購入する機会が増えたことと、他社にて漫画を大量購入する機会があったこと(【DMMブックス】 が2021年に開催した狂気の100冊70%OFFセール)をきっかけとし、マンガ専用端末としてこちらを購入しました。

Amazonのタブレット端末「Fire」シリーズの中で一番安価な「Fire 7」です。

Fire 7の良いところ

低価格

とにかく安いことが1番の魅力。価格は通常時で6,980円。セール時にはさらに価格が下がります。

持ちやすいサイズ

サイズは大きめの漫画本と同じくらい。もちろん画面は大きければ大きいほど見やすいのですが、読書用端末として使用するのであれば「持ちやすさ」「持ち運びやすさ」は重視したいところです。

参考として、Fire 7(左上)・kindle paperwhite(右上)・漫画本(2種)・文庫本を並べてみました。

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このFire7は1つ古い型ですが、最新の2022年型は縦横比が改善され、kindle paperwhiteを一回り大きくしたような形となっています。細長い形にやや扱いにくさを感じているため、最新型が羨ましい。

Fire 7の悪いところ

使用感は価格相応

iPhone等の高価な端末と比較してしまうと、やはり文字入力の際などに反応の遅さが気になります。

しかし、タッチの動作やページ捲りの動作等のスピードを要しない通常動作ではストレスを感じたことはありません。そのため、ゲームをやり込みたい、細かい絵を描きたい等の高度な操作が必要な作業以外の用途であれば問題ないかと思います。

使えるアプリが限られている

Fire7でアプリを使用する場合、Google playストアやApple Storeではなく独自の「アプリストア」からのダウンロードすることになります。そのため、各種動画配信アプリなどの有名どころ以外については使えないアプリもあるためご注意ください。

補足:DMMブックスアプリのダウンロード

DMMブックスアプリは「アプリストア」からのダウンロードができません(検索しても出てこない)が、インターネットのブラウザ経由であれば入手可能です。

book.dmm.com

Android用を使用します。ダウンロードの途中で「不明アプリ」として警告が出る場合がありますが、DMMの公式アプリであるためそのまま許可しても問題ありません。

雑誌用には小さい

漫画用としてはジャストサイズですが、さすがに雑誌については文字を拡大しなければ読むことができないサイズ感です。

Fire 7はこんな人におすすめ

安価な端末を探している

タブレット端末入門として、とりあえずお試しで触ってみたい人。

メインの端末と併用したい

「マンガ用」「動画視聴用」「持ち運び用」など用途を限定し、スマホ若しくはメインのタブレット端末の補完用として使いたい人。

Fire 7の個人的な活用方法

マンガ専用端末として使う

主にkindleとDMMブックスで購入した漫画を読むための端末として使用しています。ほぼ実物大のため見やすいうえに持ちやすい。

漫画本は痛みやすく、スペースを取り、1冊にかかる所要時間が短い。電子書籍での保管に向いています。

動画視聴用端末として使う

身体を起こしたくない時に、寝転びながら見るために使います。スマホだと画面が小さすぎますし、テレビは首が痛い。

また、YouTubeの実況動画など、長時間の動画再生用としても便利です。スマホは空けておきたい。

お風呂用端末として使う(※非推奨)

Fire7に防水機能はありません。そのためあまり大きな声では言えませんが、水に濡らさないよう気をつけながら使用しています。いくら防水といえども、高価な端末だと何となく怖いので……。

誠文堂新光社のミステリ系〇〇語辞典が面白い

最近はネット書店で電子書籍を購入することが多く、リアル書店に並べられた本と一期一会の出会いをする機会が少なくなってしまいました。

だからこそ、たまに衝撃的な出会いがあるとその思い出がいつまでも残ります。数年前にいわゆる「ジャケ買い」をして、そのままシリーズ数冊を集めた書籍があるため紹介します。

誠文堂新光社「〇〇語辞典」とは?

www.seibundo-shinkosha.net

価格千円台、フルカラーのソフトカバー単行本。食べ物、スポーツ、作家など幅広いジャンルのいわゆる「専門用語」をまとめた辞典。どの本もあ行から順に語句がずらりと並んでおり、そのうえ可愛らしいイラストも沢山あるため、眺めているだけでも飽きない。

個人的にガイド本や攻略本の類いが好きなので、今までありそうで無かった嬉しいシリーズ。

ミステリ系の〇〇語辞典

実際に購入したミステリ系辞典・3冊について。なお、ページの試し読みは各種オンライン書店にて可能です。言葉での説明には限界があるため、是非ページ全体の雰囲気を見ていただきたい。

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シャーロック・ホームズ語辞典

事件名や人物名からホームズの名言、そしてホームズにちなんだ作品のタイトル名までが並んでいます。可愛らしいタッチのイラストと、実際の挿絵タッチのイラストが要所要所で使い分けられているところも良い。付録として、ホームズの時代のロンドンの地図や、時系列に並んだホームズ解決事件すごろくが付いているのも豪華。

見どころは見開き2ページにわたるベイカー街221B(ホームズ自宅)の見取図。かなり緻密な絵で、余白全体にぎっしりと注釈がつけられています。

金田一耕助語辞典

金田一耕助語辞典のイラストはほのぼの系。ゆるいテイストの金田一耕助が可愛らしい。巻末の金田一パタパタ着せ替えも必見です。

しかし、死体の描写の残酷さに定評(?)のある金田一シリーズ。死体のイラストはほのぼの系から一転してグロテスクに描かれています。死体のイラストのみを見開き2ページに集めた「殺害カタログ」が怖すぎる。小学生の頃の自分が見たら絶対に泣いている。

個人的には、辞典内に「金田一少年の事件簿」の項目があったことがとても嬉しい。

江戸川乱歩語辞典

こちらは一転して、乱歩作品のイメージ通りの妖艶なタッチのイラストが並んでいます。明智小五郎のイラストが格好いい。前の2冊と比べ、写真も多く掲載されている気がします。

綴じ込み付録として様々なジャンルの文化人の方々(綾辻行人・有栖川有栖 両先生から小学5年女子までいる)が好きな乱歩作品ベスト3を挙げているのですが、見事にバラバラであったことが興味深い。

ミステリ系以外の○○語辞典

出版社公式サイトにて「辞典」で検索したところ、このシリーズは他にも約30冊ほどあるようです。カレー、コーヒー、チョコレート、野球、鉄道、宝塚、着物、城……ジャンルが幅広いので、誰でも1冊は心に刺さるものが見つかるかと思います。

個人的に今後購入してみたい辞典を2つ選びました。

パン語辞典

今回改めてミステリ系以外にどんな辞典が出ているのか調べたのですが、このパン語辞典、随分前に書店で気に入って眺めていた本でした。やはりこの辞典形式が物珍しかったのと、ほのぼのとしたタッチのイラストが可愛らしかったことがとても印象に残っています。このシリーズの1冊だったとは。

そして何年経っても好みが変わらないことに衝撃を受けました。今度は是非購入してゆっくり読みたい。

将棋語辞典

女流棋士の香川愛生さんが監修している将棋語辞典。「将棋の渡辺くん」を読んだりAbemaで対局の中継を見たりしてはいるものの、何となく雰囲気で覚えてしまった用語がかなりあるため、読みやすいこのシリーズで復習するのも良いかもしれない。

実物を見てみたいので、久しぶりに大型書店に行ってみようと思います。

 

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【法月綸太郎】図書館司書・沢田穂波とリファレンス・コーナーで仲良く事件を紐解く短編をまとめる

法月綸太郎シリーズが好きです。先日、「法月綸太郎の消息」文庫版の発売をきっかけに、父と息子が自宅リビングで謎を解く安楽椅子探偵型の短編をまとめました。

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短編集のタイトルとなった綸太郎の消息も気になるところですが、それ以上に気になるのが綸太郎といい仲(?)だった図書館司書・沢田穂波の消息です。初期の短編に多く登場していましたが、お元気にしているのだろうか。

主な2人の登場人物

法月綸太郎とは

締め切りと日々戦う推理小説家。長身でこざっぱりとした外見。本業の他、捜査一課の非公式ブレーンを務めたり、区立図書館のリファレンス・コーナーに足繁く通ったりしている。

沢田穂波とは

区立図書館で司書として働く女性。色白で気が強そうな顔立ち。大きな黒縁眼鏡をかけている。綸太郎を上手くコントロールし、尻に敷いている。可愛くて賢い。

 

「法月綸太郎の冒険」より

図書館関連の日常の謎が4編。どれも事件の解決を穂波が綸太郎へ依頼し、綸太郎が一肌脱ぐ、といった流れです。

切り裂き魔

「さあ、正直に白状なさい。何が目当てで足繫くここに通ってくるのか。答えられないのなら、今すぐ切り裂き魔捜しの仕事を引き受けてもらうわよ、好色探偵さん?」

『法月綸太郎の冒険』切り裂き魔 より

区立図書館の蔵書のうち、推理小説の名作ばかりが扉のページを切り取られる被害に遭っていた。犯人である「切り裂き魔」の目的は何なのか?

自分に好意を向ける綸太郎を、掌で転がしている穂波。しかし、鼻の下を伸ばす様子が図書館職員の間で笑い種になっている綸太郎も綸太郎なので、決して文句は言えない。

切り裂き魔の動機については、外にも手段はあったのにどうしてページを切り取らなければならなかったのか、という疑問にも細かく例を挙げてカバーしている点が面白い。油断したところで来る最後のオチも良い。

緑の扉は危険

「わたし、休みの日はコンタクトにしてるの」

綸太郎は穂波をにらんだ。

「―—ずるいぞ、そういうのは」

「あら、今のはひとりごとよ」

『法月綸太郎の冒険』 緑の扉は危険 より

以前より図書館への蔵書寄贈を希望していた資産家が、首を吊って亡くなった。しかし、遺族である資産家の妻が、蔵書寄贈を頑なに拒んでいる。なぜ妻は蔵書を手放したくないのだろうか?

綸太郎を上手く操り、休日出勤のアッシーとして呼び出す穂波。簡単に穂波の言いなりにはならない、という綸太郎の固い(?)意思が崩されるのが早すぎる。

開始時点では日常の謎だったものが、密室殺人事件の解決に結びつく流れが鮮やかで好きです。ざっと書庫を眺めただけで、妻が蔵書に対して金銭的価値を期待していないことを見抜いたり、必要とあらば父を使って警察を動かしたりできる綸太郎が、穂波にだけは頭が上がらない様子が可笑しい。

土曜日の本

「でも、沢田さんは来られなくて、ずいぶん悔しがってましたね」

詩子の姿が見えなくなると、松浦が口を開いた。

「あれで見かけによらず、ヤジウマ精神旺盛な人だからさ。でも、仕事がある以上、いくら悔しがったって、仕方ないもんね。いっひっひっひっひっひ」

と綸太郎。まるで筒井康隆である。

『法月綸太郎の冒険』 土曜日の本 より

「五十円玉二十枚の謎」の短編依頼に苦しむ綸太郎の元へ、大学生・松浦がやって来る。友人の詩子が、アルバイト先で五十円玉男に遭遇したという。五十円玉男の目的とは何なのか?

冒頭に穂波は登場しますが、今回の現場でワトソン役となるのは「切り裂き魔」で知り合った大学生・松浦。松浦が綸太郎のファンということもあり、師弟関係のようで微笑ましい。いつも穂波にやられっぱなしの綸太郎が、陰で言いたい放題(引用文)なところも面白い。

余談ですが、レジで千円札を五十円玉二十前に両替する男を巡る「五十円玉二十枚の謎」は、作家の若竹七海氏の実体験。その謎解きとして競作されたうちの1作品が、この「土曜日の本」です。

過ぎにし薔薇は……

「全く頼りにならない探偵さんだこと」

「面目ない」

綸太郎は小さくなってうなだれた。

『法月綸太郎の冒険』 過ぎにし薔薇は…… より

区立図書館で、毎日3冊の本を借りる女性。彼女は本の内容には興味を示しておらず、また、他の図書館でも毎日同じ行動を繰り返していた。彼女の目的は何なのか?

穂波の依頼とあれば、図書館のハシゴまでして対象者を尾行する綸太郎が健気すぎる。本の小口(天井部分)だけを見て借りる本を決めている女性の境遇が明らかになる過程で、本のつくりや装丁家の仕事についての知識も得られる「図書館探偵」らしい一編です。

「法月綸太郎の新冒険」より

こちらは「~冒険」とは毛色が異なり、3編のうち1編が番外編のような位置づけで、2編が実際の殺人事件に関わることになります。

イントロダクション

「相性占い?」

「いいえ」穂波の返事はそっけない。「あなたがひとりで占うのよ」

『法月綸太郎の新冒険』 イントロダクション より

映画までの時間潰しに、ゲームセンターへ入る綸太郎と穂波の掌編。プリクラを拒否した綸太郎は、相性占いの機械を試すことに。オチが大変なことになっています。

背信の交点

それでも、こうして二日間の旅程が終わりに近づき、東京まで余すところ一時間半を切ったとなると、すこしずつ夏の終りを感じさせる夕映えの景色と重ね合わせて、だんだん名残り惜しい気分になってくるから、不思議なものだ。そういう感覚は、穂波も共有していると見えて、軽口をたたきながら、どことなく表情がもの憂げになっている。

『法月綸太郎の新冒険』 背信の交点 より

「あずさ68号」の車内で、1人の男性が毒を飲んで死亡した。一方、松本駅ですれ違う「しなの23号」の車内でも、同様の状況で死亡した女性が発見される。2つの事件はどのように繋がっているのか?

図書館長の急病により、穂波と2人で信州出張へ行く権利を手にした綸太郎。昼はフォーラムに出席、夜は遅くまで穂波の部屋で水道管ゲームをし、翌日は安曇野の観光コースをてくてく歩いたとのこと。綸太郎の期待する結果とは違ったようですが、仲が良くて羨ましい限り。

しかし楽しい2人旅の終盤、前の座席の客が不審死。父・法月警視が事件提供者であるおかげで綸太郎はこの手のパターンにあまり遭遇しませんが、さすがは名探偵、引きが強い。捜査が進むにつれ、被害者2名の真の関係性が浮かび上がってくる流れに引き込まれます。終盤の犯人と綸太郎との対峙シーンも、犯人がとても手強く、手に汗握ります。個人的に穂波が登場する短編の中で1番好きな作品です。

リターン・ザ・ギフト

法月警視がにらんだ通り、同じ火曜日の午後、綸太郎は行きつけの区立図書館に来ていた。二階の一般閲覧室、リファレンス・カウンターに頬杖をついて、沢田穂波がパソコンのキーボードを打つ姿にじっと見入っている。

『法月綸太郎の新冒険』 リターン・ザ・ギフト より

女性の住居へ侵入し殺人未遂の疑いをかけられた容疑者が、ある人物から女性の殺害を依頼されたと供述した。法月警視率いる捜査班がその人物のアパートへ向かったところ、部屋は既にもぬけの殻で、現場には交換殺人を示唆する書籍が残されていた。この事件は、どのような構造になっているのか?

事件解決に穂波の証言が必要となり、区立図書館を法月警視が訪ねてきます。息子がそこで鼻の下を伸ばしていることなど先刻承知な警視。また、中盤は法月家リビングでの安楽椅子探偵パートとなります。綸太郎が淹れてくれたコーヒーでは物足りずアルコールを欲しがったり、綸太郎が温めてくれた冷凍のピザに文句を付けつつ平らげるお茶目な警視(?)も見どころの1つ。

加えて、図書館カウンターで穂波を相手に綸太郎が行う「真犯人の条件である4つの可能性の検証」も読みごたえがあります。終盤の、記憶力の良い穂波による何気ないたった1つの証言で事件の構造が紐解かれるシーンも面白い。

 

穂波が登場する作品は以上となりますが、読者が知らないだけで、今日も綸太郎は区立図書館のリファレンス・コーナーで鼻の下を伸ばしているのかもしれません。穂波の尻に敷かれる綸太郎の姿を、またどこかで見られるといいなと思います。

 

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【法月綸太郎】父・法月警視と自宅で仲良く安楽椅子探偵の短編をまとめる【消息】

法月綸太郎シリーズの短編集「法月綸太郎の消息」の講談社文庫版が先日発売されました。単行本発売時に読了済みではありますが、どちらにしろ大好きなシリーズなので嬉しい。

当作には短編4編が収録されていますが、そのうちの2編が、法月家リビングで行われる毎度恒例の安楽椅子探偵ものです。息子の綸太郎と父である法月警視が、ビールやコーヒーを片手に親子水入らずで現在捜査中の事件についてああでもないこうでもないと語り合う様子がとても微笑ましい。

そこで、シリーズ短編集6冊の中から、綸太郎が法月家リビングから一歩も外に出ずに事件を解決する作品をまとめました。意外と少ない。短編集の刊行順で、古い方から並べます。

たった2名の登場人物

法月綸太郎 (息子)

締め切りと日々戦う推理小説家。長身でこざっぱりとした外見。本業の他、捜査一課の非公式ブレーンを務めている。父に対して敬語を使う。

法月貞雄 (父)

警視庁捜査一課の警視。「定年間近」であるため恐らく50代後半。捜査が難航するたび息子をブレーンとして召喚しているが、職場では黙認されている。愛煙家。妻とは死別しており、息子とずっと親一人子一人で暮らしてきた。

 

法月綸太郎の功績

都市伝説パズル

「お互いにこれで、痛み分けというところだな」

しょんぼりしている綸太郎を励ますように、法月警視が声をかけた。キッチンから戻ってきたところで、両手に新しく作り直した飲み物を持っている。

『法月綸太郎の功績』 都市伝説パズル より

殺人事件の現場に、血文字で「電気をつけなくて命拾いしたな」とメッセージが残されていた。巷で流行りの都市伝説と全く同じ状況だが……

自宅でのディスカッションにより、親子がそれぞれ疑っていた容疑者2名の犯行を否定し、ダークホース的な立ち位置の真犯人を論理的に導き出す過程がとても美しい。なぜわざわざ手間暇かけて都市伝説に見立てたのか、という疑問への回答にも綺麗に繋がります。

本格ミステリとしての美しさ、法月父子の微笑ましさ、最後の締めでホラーに転じる物語の流れ、すべてが贅沢すぎる大好きな一編です。

縊心伝心

もし自分が独立して、この家を出るつもりだと告げたら、定年間近のやもめの父親はどんな顔をするだろう?

『法月綸太郎の功績』縊心伝心 より

自殺予告をした後、自室で首を吊った女性。その死体には他殺の痕跡が残っていた。ただ、有力な容疑者には強固なアリバイがあり……

父の老後に思いを馳せつつ、実はこの瞬間もすっかり惚けた父と自分の妄想の世界なのかもしれない、とにやけながら考えている綸太郎の姿が微笑ましい。そして2人分のブラックコーヒーを淹れてくれる警視がかわいい。

事件については、〇〇〇の存在に思い至った途端、今まで舞台の袖にいた容疑者が一瞬にして引き摺り出されてくる構図が面白い。飛び降り自殺に偽装しなかった理由への繋がり方が綺麗。

犯罪ホロスコープⅡ

宿命の交わる城で

「おっと危ない、重要証拠物件のコピーを返し忘れた。内容は部外秘だから、俺が自分の部屋で着替えている間に、盗み読んだりするなよ」

「はいはい」

『犯罪ホロスコープⅡ』宿命の交わる城で より

同時期に起きた2つの殺人事件現場に、デザイン違いの同じタロットカードが残されていた。綸太郎はこの2つの事件を、交換殺人として結び付けたのだが……

帰宅時の手土産として白々しく捜査資料のコピーを投げてよこす警視も、その芝居に律儀に付き合い警視がいない間に資料に目を通す綸太郎もかわいい。

事件が日を追うごとに二転三転し、ただの交換殺人では終わりません。個人的には、冒頭に登場する「正義」のタロットカードの説明文が、資料の引用文に見せかけた伏線であるところが好きです。

法月綸太郎の消息

あべこべの遺書

たらふく夕食をごちそうになって十一時過ぎに家に帰ると、一足先に帰宅した父親がひとりわびしく、カップ麺をすすっていた。

『法月綸太郎の消息』あべこべの遺書 より

同時期に死亡した2つの遺体。それぞれが相手の自宅で、相手の遺書と共に発見された。2人は無理心中ではなく、生前は恋敵だったようだが……

過去作よりも法月警視のお茶目な描写が多く、人間味に溢れている。資料の文字サイズに文句を付ける様子がとてもリアル。コーヒーの濃淡で警視を陰ながらコントロールする綸太郎もなかなかの策士。

殺さぬ先の自首

「うん、その誰かというのはあれだ、要するにお前の母さんのことなんだが」

お前の母さん……。

思いもよらない発言に、綸太郎は言葉をなくした。

『法月綸太郎の消息』 殺さぬ先の自首 より

「私は人を殺しました」と警察署へ自首した男。その時点では相手の生存が確認されたのだが、後ほど本当に殺人事件が発生し……

冒頭からいつもの様子と違い、歯切れの悪い警視。事件関係者の中に、死別した妻と話し方や声つきが似た女がいたとのこと。

いつものように事件解決の目処がたち和やかに幕が下りる様子とは全く異なり、不穏な雰囲気のまま物語が閉じます。ちなみに法月母については「雪密室」にも記載があります。

 

老いを感じる描写が増えていますが、法月警視がいつまでもお元気で、綸太郎と仲良く事件について語り合う日々が続けばいいなと思います。恐らく作中世界はサザエさん状態ですが、そのまま永遠に警視の定年が来ないでほしい。

 

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↑ 綸太郎と穂波についてはこちらに書きました。

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↑ 余談ですが、個人的好みとしては「都市伝説パズル」と「死刑囚パズル」が同率1位です。

【杉浦さやか】わたしの原点となったスクラップ帖とイラストエッセイ【たのしみノートのつくりかた】

誰もが多感な時期に、影響を受けた存在がいるかと思います。ライフスタイルの面でわたしが大きな影響を受けたのは、イラストレーターの杉浦さやかさんです。

主に絵と文を交えたイラストエッセイを描く杉浦さん。可愛らしい絵の雰囲気からは想像できないほど、作品の中には杉浦さんの好みとセンスがぎっしりと詰まっています。その1つ1つが素敵なのはもちろんですが、「これが好き」というはっきりとした意思があり、その方向性がぶれないところにも勝手に憧れています。

流行り廃りに関係なく自分の「好き」を貫く生き方を、高校生だったわたしは杉浦さんの著書に教えてもらいました。

最初の1冊「たのしみノートのつくりかた」

わたしが初めに手にとった1冊は「スクラップ帖のつくりかた」です。昨年、タイトルを変え、中身が追加された増補改訂版が出版されました。

生活の様々な記録を残している杉浦さんのノートづくりについて、沢山の実物写真も交えながら紹介している当作。

普段は行かない高校の図書室でたまたま開いた本だったのですが、冒頭に登場する幼少期からのノート遍歴の時点で「すごく好みな本を開いてしまった」、読了時には「このまま返却したくない」と思うほど引き込まれたことを今でも鮮明に覚えています。以来すっかりファンになり、書籍を買い続け、ぺたぺた日記・旅日記は現在に至るまで真似をしています。

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おすすめの5冊

僭越ながら完全に自分の好みで5作品を選び、紹介します。(単行本の)刊行順で、古いものから並べています。

12ヵ月のクロゼット

こちらも冒頭に幼少期からのファッション遍歴があり、出だしから引き込まれます。服本体はもちろん、こだわりのアクセサリーや巻物、バッグなどの小物の紹介ページが素敵。その一方で、しまむらやおバカ服などユニークなページもあり、多種多様な面白さがあります。ファッション誌はいつも流し読みしてしまいますが、「好き」が詰まったこの本は熟読してしまう。

 

結婚できるかな?婚活滝修行

夫・パウロさんとのなれそめ漫画が好きです。友人として関わるうちに、相手の印象がどんどん変わっていく様子が丁寧に描かれており、とても素敵。文庫版のおまけにはタロット占い師であるパウロさんの婚活アドバイスもあります。お店の例えが面白い。

また、結婚式準備の過程についても詳細に記録されており、解像度が高すぎるが故に自分も参列したかのような幸せな気分になります。別府温泉・杉の井ホテルのアミューズメント感が凄い。

 

おきにいりと暮らすABC

暮らしの中のお気に入りの品が沢山の写真と共に紹介されている1冊。ジャンル問わず好きなものの詰め合わせといった趣きの本で、特に好きな1冊です。

ここで1番好きなページを挙げるべく、もう何度目か分からない再読をしたのですが、骨董市、こけし、お菓子、お手紙、マッチ箱のコレクション…決められませんでした。

 

すくすくスケッチ

妊娠、出産、そして生後数年までの子育てについての1冊です。綺麗なことだけではなく大変だったこともリアルに書かれており、未知の世界を覗き見させていただいた気分です。

中でもやはり気になるのは成長記録ノート 。将来、新潮文庫「マイブック」の1日1ページに書かれた幼い自分の何気ない日の仕草や言葉を読み返すことのできる娘さんが本当に羨ましい。

 

ニュー東京ホリデイ

東京9エリアについての街歩きの本です。個人的に東京駅や丸の内界隈が好きなので、冒頭に登場するのが嬉しい。他にも味のある街並みやお店、建築物などが可愛らしいイラストと共に紹介されていますが、最後の締めが西荻窪であるところに愛を感じます。

 

【おまけ】すてきなおみせの包装紙レターブック

先日発売された、ありそうで無かった杉浦さん監修の包装紙柄のレターブック。実際に全国各地の店舗で使用されている素敵な包装紙の柄が紹介されています。眺めているだけで楽しい。個人的には表紙にも採用されている銀座千疋屋が好き。わたしには無理ですが、ページを切り取って使うことも出来ます。

 

【金田一くんの冒険】七瀬美雪12歳の視点で語られる、もう1つの「金田一少年の事件簿」【青い鳥文庫】

17歳の高校生である金田一一(はじめ)を主人公とした漫画「金田一少年の事件簿」。現在は青年誌イブニングにて連載が再開されています。

また、現在は連載が中断されていますが、37歳になったはじめを主人公とした「金田一37歳の事件簿」も話題になりました。

さて、本編の17歳と近年話題の37歳の他に、小学生6年生のはじめ(12歳)の活躍について描かれた作品があることをご存じでしょうか。講談社青い鳥文庫から2018年に出版された、「金田一くんの冒険」シリーズ(既刊2巻)です。

児童書レーベルである青い鳥文庫のため、対象年齢は作品内のはじめ・美雪と同じ小学生。この手の本はキャラクター設定だけを借り、他の作者が文章を書いていることも多くありますが、当作は本編と同じく天樹先生が文章を、さとう先生が挿絵を担当しています。お子様向けと侮ってはいけません。

12歳のはじめもやはり事件に巻き込まれ、ジッチャンの名にかけて真相解明に取り組み、謎はすべて解けたと宣言した後、関係者を集めて犯人はこの中にいると語り出します。青い鳥文庫版であっても、お決まりの流れは健在です。

また、物語の語り手が12歳の美雪である点も面白い。はじめへの思いが聡明な美雪の視点で文章化されていて分かりやすいうえ、その素直さに思わずキュンとさせられる場面もあります。

12歳のはじめと美雪の日常

はじめと美雪は不動小学校の6年生。隣同士の家で生まれ育った幼馴染の2人は、幼いころから互いの家に預けられ、親しい関係性を築いてきました。

はじめは学校ではしょっちゅう先生に怒られ、授業態度は不真面目。休み時間には悪友たちとエッチな遊びで盛り上がっています。生徒会活動も行うしっかり者の美雪とは正反対。

そして2人は「冒険クラブ」に所属し、放課後に活動を行っています。このクラブ活動へ参加することにより、はじめは事件に巻き込まれていきます。

1巻「からす島の怪事件」

はじめちゃんは、ふといマユ毛をキリリとよせていった。

「この謎は、かならずオレがといてみせる。名探偵といわれた、ジッチャンの名にかけて!」

『金田一くんの冒険 からす島の怪事件』より

あらすじ

冒険クラブは太平洋の離れ小島である「からす島」へ夏合宿に向かいます。目的はこの島に隠された金銀財宝を探すことでしたが、島での調査中、人を喰う妖怪「島姥」の伝説を知ることになります。そんな中、一緒に上陸したリゾート開発会社の2人が失踪してしまい……

はじめが解く謎

  • 姿を消した2人はどこへ行ったのか?
  • 露天風呂に現れた「島姥」の正体は?
  • 砂浜で発見された人骨は誰のものか?

見どころ

過疎の島へのリゾート開発に現代の「姥捨て」。さすがは金田一シリーズ、12歳にしては重い動機です。姿を消した2人の謎は、種明かしを聞けば単純な仕掛けですが、盲点があり意外と気が付かない。序盤に大きな伏線がありますが、語り手である美雪に感情移入しすぎると見逃します。

また、美雪の視点で語られる、推理モードに入ったはじめの格好良さについての描写がどれもとても良い。漫画とはまた違う楽しみ方ができます。

2巻「どくろ桜の呪い」

「なぁ、美雪……。」

だまって廊下を歩いていたはじめちゃんが、わたしにむきなおっていった。

「この謎は、ぜったいにオレがといてみせるよ。名探偵といわれた、ジッチャンの名にかけて!」

『金田一くんの冒険2 どくろ桜の呪い』より

あらすじ

冒険クラブは6年生の教室で発生した黒板落書き事件の犯人「どくろ先生」を捜すことになります。どくろ先生は近日中に切られる予定の「どくろ桜」にどうしても人を近づけたくないようです。そんな中、どくろ桜を切るか残すかを決める全校生徒投票が行われることになり……。

はじめが解く謎

  • 「どくろ先生」がはじめ達を美術倉庫に閉じ込めた方法は?
  • 「どくろ先生」の正体は?
  • 「どくろ先生」が騒ぎを大きくした目的は?

見どころ

事件の動機は、過去の些細なすれ違いや思い込みにあります。ミスリードによって、読者も犯人と同じ勘違いをさせられてしまう。この手の流れは本編にもよく出てきますが、それが凄惨な殺人事件に発展してしまう本編と比べると救いのある結末です。

また、ワトソン役である美雪のサポートが、推理面でも精神面でも手厚くとても12歳とは思えない。はじめと美雪の信頼関係が、既に出来上がっているともいえます。

はじめの友人①千家貴司

「金田一くんの冒険」には、シリーズではお馴染みのはじめの友人が2人登場します。そのうちの1人が千家貴司。2巻に生徒会長として登場する彼は、秀才かつ優等生ですが、はじめのことを何かとライバル視しているようです。

17歳となった本編にも、変わらずはじめの友人として登場する千家。「首吊り学園殺人事件」でははじめや美雪と一緒に事件に巻き込まれた仲でもあります。そんな千家が「魔犬の森の殺人」で、あのような事になるとは……。

はじめの友人②村上草太

はじめのもう1人の友人である草太。真面目で勉強もできる彼ですが、12歳のはじめの一番の友達で、冒険クラブのメンバーでもあります。1巻、2巻どちらもはじめと行動を共にし、事件に巻き込まれてしまいます。

17歳となった本編でも、変わらずはじめの気のいい友人として登場し、「獄門塾殺人事件」では事件にも巻き込まれています。また、彼は37歳の時点でもはじめの飲み友達として登場します。地元信用金庫の課長となり、2児の父となった草太。彼だけは今後も無事であってほしい。

 

 ↓ 37歳のはじめと美雪について書きました 

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↓ 台湾の思い出

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【将棋の渡辺くん】渡辺明名人を差し置いて、伊奈めぐみさんのファンになってしまった【漫画】

つい最近まで将棋のしの字も知らない人間でしたが、ここ2年ほどの間にルールを覚え、将棋界のことを学び、コンピューター相手に将棋を指し、藤井竜王のタイトル戦をAbemaで欠かさず見るようになりました。この歳で全くノーマークだったジャンルに足を踏み入れることになるとは思わなかった。

きっかけは漫画「将棋の渡辺くん」との出会いです。

この漫画の主人公は棋士の渡辺明名人。作者は渡辺名人の妻である伊奈めぐみさんです。主に以下の2つのテーマについて、1話完結の形で描かれています。

  • 将棋界について(ルール、慣例、棋士の人柄など)
  • 渡辺名人について(棋士としての人柄、普段の人柄)

1つの話がコンパクトに纏まっており、テンポよく読めるため、もう何度読み返したか分かりません。繰り返し読むうちに、将棋のことが好きになり、渡辺名人のことが好きになり、そして名人の周りの人達のことも好きになる。

将棋界について

将棋のルール

初歩中の初歩であるルールにも触れることで決して初心者を見捨てない姿勢、とてもありがたいです。特に、一般的に使われている語源が将棋用語の言葉について、その意味の違いを比較しながら説明している3巻35話や、初心者である担当さんと渡辺名人の対局を通じて将棋のコツを説明している5巻36話がとても参考になりました。

将棋界の慣例

プロの「棋士」とは何者か、「タイトル」とは何なのか、そもそもこの文章内で「渡辺名人」「藤井竜王」という呼び方をしているのは何故なのか。将棋の世界のことはこの漫画にすべて教わったと言っても過言ではありません。

特に、渡辺名人の和服を手掛ける白滝呉服店さんへ取材した5巻30話や、コロナ禍でのタイトル戦の在り方や渡辺名人のマスク選びを描いた6巻1話が好きです。

棋士の人柄

作中に登場した棋士の先生方を解説等で見かけると、「渡辺くんの漫画で見た!」と(進研ゼミのように)嬉しくなります。特定の1人を1話まるごと使って紹介している場合もあり、特に渡辺名人との親交が深い方々を描いた3巻11話(佐藤天彦さん)、4巻47話(戸部誠さん(のお父さん))、6巻33話(竹部さゆりさん)が面白かったです。

渡辺名人について

棋士としての人柄

この漫画の特長の1つとして、家庭内インタビューにより、公式とは別の角度から渡辺名人の将棋に対する考え方を知ることができる点があります。その時々でタイムリーな話題を扱えるところも強い。最近の内容では、藤井竜王との今後の戦い方を考える6巻2話や、渡辺名人の誕生を機に「名人」のタイトルを取るまでの道のりを描いた6巻3話を興味深く読みました。

普段の人柄

棋士として表舞台に立つ姿からは想像できませんが、渡辺名人はぬいぐるみ好きとして知られています。名人の「ぬい」への愛情とこだわりを垣間見ることのできる話の中で、私がとくに好きなものは以下の5話です。

  • 1巻14話実家で飼っている犬の話。
  • 2巻45話→ぬいとゆるキャラの違いについて。僭越ながら私も同意見なので嬉しい。
  • 2巻57話→アマチュア将棋大会の賞品としてぬいぐるみを選ぶ話。
  • 3巻42話→蓼科テディベア美術館を訪れた話。商品のぬいぐるみと会話する様子が微笑ましい。
  • 5巻41話→ぬいを買う場所とおすすめのメーカーについて。渡辺家のぬいのセンター的存在であるシロちゃんたちは既に廃盤とのこと。

www.san-ei-boeki.co.jp

観察者としての作者・伊奈めぐみさん

ここまでは一般的な目線による「将棋の渡辺くん」の良さについて書きましたが、この先は私個人としての感想です。

私が「将棋の渡辺くん」を好きな理由として1番大きな部分は、作者の伊奈さんが渡辺名人を見つめる距離感の絶妙さです。把握出来ていないだけかもしれませんが、この作品のような「妻が著名人である夫について描く」漫画は有りそうでなかなか無い気がします。有名な立場の方ならばどんな分野でもイメージが大事となるため、その点を損なわないように描くのは(炎上しやすい今の時代は特に)とても難しい。

夫の仕事に介入しすぎてもいけないし、無知すぎてもいけない。作品内で誉めすぎてもいけないし、貶しすぎてもいけない。自分が出すぎてもいけないし、出なさすぎてもつまらない。このバランスの絶妙さこそが、「将棋の渡辺くん」が皆から愛される理由なのではないかなと感じています。

また、伊奈さんのインタビューが掲載されたこの記事がとても好きです。

bunshun.jpbunshun.jp

伊奈さんが渡辺名人に向ける目線は、ある程度離れた距離から双眼鏡で見つめているような、観察者としての目線に近いものかと思います。この絶妙な距離感で描いた作品だからこそ、読んでいてとても心地よさを感じるのかもしれません。

最後に、私の1番好きな6巻17話を引用します。競馬好きな渡辺名人が、馬主になりたいと伊奈さんのところへ相談に来る話です。

「生活費さえ確保してくれれば良いよ」

「…周りに何か言われるかな…?」

「君が努力して稼いだお金なんだから 君が好きに使えば良い」

伊奈めぐみ「将棋の渡辺くん」6巻17話

この後に続くオチも好き。

【おまけ】藤井聡太竜王登場回まとめ

「君はこの漫画では主人公だけど将棋界ではいつも引き立て役だよね」

伊奈めぐみ「将棋の渡辺くん」6巻2話

特に注目を集める藤井竜王との対局後は、どのような状況でなぜ負けてしまったのかという素人には理解し難い上に記者の方々も聞きづらいと思われる部分について、渡辺名人の分析を分かりやすい例えで表現し漫画に落とし込んだ物凄く読み応えのある回が登場するため、毎回とても楽しみにしています。

  • 5巻17話(朝日杯)→初対戦の感想。対局後の打ち上げの話も貴重です。
  • 6巻2話(棋聖戦)→上に引用した台詞のコマが大好きです。第1局から第4局までの戦況をまとめた1ページが分かりやすい。
  • 6巻22話(朝日杯)→伊奈さんの立場でなければ出来ない「国民的ヒーローの切られ役」という表現が好き。どこから弾が来るか分からない、という例えを可視化した絵がかわいい
  • 6巻36話(棋聖戦)→「万年敗者のばいきんまん視点」で語られるいつもの勝ちパターンが通用しない理由について、三匹の子豚に例えて説明されており分かりやすいうえにかわいい

また、今後7巻1話に収録されるであろう2022年5月号では、王将戦で感じた藤井竜王の凄さについて触れられており必見です。藤井お釈迦様の「ぱ―—―—(以下略)」が恐ろしい。

pocket.shonenmagazine.com

↓ この「特別編」の後ろの方に「ぱ―—―—(以下略)」が収録されています。アイビーの話やマッサージガンの話なども無料で読めて、豪華すぎる傑作選

↓  好きすぎるあまりこちらにも書かせていただきました。

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